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俺は、自らに言い聞かせる様に言った。
「まぁ…答えが出た以上、キッパリ諦めるさ。でも、今のタイミングじゃ駄目なんだ。フラれた直後に、お前に鞍替えするみたいで…そんなの、俺自身が許せねぇ。第一、お前に失礼だろ?」
「私に…ですか?」
「そうだよ。お前にだ、燧 珠里。」
「烈火さん…」
「俺は多分、近い将来、お前と結婚するんだろう。だけどそれは、お前が『燧家の娘』だからじゃない。当主の義務も古い倣わしも、全部取っ払った処ろで、俺はお前と向き合いたいんだ。」
「はい。」
「ちゃんと恋愛しよう、珠里。 お前を嫁にするのは、その後だ。だから、帰るな。このまま俺の傍に居ろ。」
「よろしいんですか、お傍に居ても?」
「あ、当たり前だろ?離れてたら、お前の事も解んないままじゃねーかよ。」
「嬉しい──」
潤んだ眼差しで見詰められて、ドキリと胸が跳ねる。
初めて、珠里を可愛いと思った。
失恋したばかりの心の穴に、するりと入って来るこの女は、恐らく、俺の人生に必要不可欠な『伴侶』となる為に生まれて来たのだろう。
運命というものの仕組みが、少しだけ垣間見えた気がした。
「お前さ。とりあえず玉子焼きの練習しろよ。甘くて出汁が効いてるのがいいな。…俺の『好み』だから。」
気まずさと照れ隠しを込めてそう言えば、珠里は忽ち輝く様な笑顔を見せる。
まるで、今日の空の様に──
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