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春彼岸の、あの日以来──
火邑家の厨房では、またこんな日常が繰り返されていた。
珠里の料理は、相変わらず食えたもんじゃない。何度も付きっきりで練習しているのに、なかなか上手くならなかった。
それでも最近、やっと『俺好み』の厚焼き玉子をマスターした。そこに到るまでに産出した残飯と不燃ゴミの山を思えば、努力の割に、成果は芳しくないと言える。
だが、それでも良い。
人には皆、『向き』『不向き』がある。
確かに珠里は主婦向きではないが──それでも、 こうして努力を続ける健気さがある。
もう、それで充分だ。
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