Epilogue─エピローグ─

4/4
前へ
/218ページ
次へ
「はぁ…またやっちゃった…」 (かたわ)らで、珠里がどんより溜め息を()いた。 酷く落ち込んだその様子に、俺は思わず吹き出してしまう。 「一緒に謝りに行ってやるから、そんな顔するな。」 「でも…」 「大丈夫だ。謝り方のコツを教えてやるよ。お袋の性格は熟知している。何せ二十数年間、謝り続けているかな。」 ガキの頃の嫌な出来事の数々を思い出して…俺は、少しだけ不愉快になった。本当に、鬼母の代名詞みたいな、お袋である。気の強さは、今も健在だ。 「…許して下さるでしょうか?? 奥方さまのお気に入りなんでしょう?」 不安を拭えない表情で、珠里は言う。 俺は、その顔を覗き込むようにして答えた。 「許すさ。お前は、俺の未来の嫁さんだからな。お袋も、追い出したりはしねぇよ。」 「──え!?」 驚く珠里の頭を引き寄せると、 俺は、その唇に自分の唇を重ねた。刹那の口付けは、甘い玉子焼きの味がする。 「うん。砂糖、多めだな。今日の玉子焼きは、上手く出来てるぜ。」 「あ…さっき試食した時の…?」 思い出した様に呟いて…珠里は、真っ赤に頬を染める。狙い通りの反応に、思わず口元が(ほころ)んだ。 「さぁ、潔く怒られて来るか!行くぞ、珠里。」 「はい!」 自然に交わす笑顔。 温かい思いが、心を満たす。 当たって砕けた末に見付けた──これが俺の本当の『答え』だ。これで良かったのだと、つくづく思う。 窓から射し込む、初夏の陽射し。 『未来の花嫁』の手をとって、俺は厨房を後にした。       ─END─
/218ページ

最初のコメントを投稿しよう!

236人が本棚に入れています
本棚に追加