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其処へ──
「烈火、いる?」
遠慮がちに襖を開けて、薙がヒョイと顔を出した。控室に閉じ籠ったまま、姿を表さない俺の身を案じたのか…とて心配そうな表情をしている。
今、薙の心をは占めているのは、俺だ。
──そう思うと、一気に救われた気分になった。不謹慎と云われようが構わない。薙が、俺を思ってくれているという…その貴重な現実が、火傷の痛みも…脩司の嫌味から受けたダメージも、一瞬で消し去ってくれた。
「悪りぃな、薙。せっかく来てくれたのに。なんか俺…みっともねーとこばっか見せてるよな。」
そう言うと、薙はブンブン首を振って…
「みっともないなんて、そんな事ないよ。それより、火傷は平気なの?なんか、全身火ダルマだったけど??」
気遣わしげに眉根を寄り合わせる薙。幸福感で、じんと熱くなる胸を抑えながら…俺は、薙の小さな頭をクシャリと混ぜた。
「大した火傷じゃねーよ。心配すんな!」
「でも…」
そこへ突然、崇子が割って入る。
「大丈夫ですよ、首座さま。烈火は基本、頑丈なんです。何しろ、《火天》の恩寵を承けて生まれた男ですから。炉の火種で火傷したからって、死ぬ様な事はありません。」
「火天の、恩寵?」
「えぇ。《火天法楽》の日に生まれた、『火神の申し子』って言われているんです。だから間違っても、火に焼かれて死ぬなんて事はありません。」
崇子の言葉に、薙は安堵の溜め息を吐いた。
「そう…それなら、うん。安心した。」
そう言って、不意に和らいだ微笑を溢す。
あぁ、くそ!
やっぱ可愛いよ、こいつ。
くるくると良く動く表情も、キラキラと輝く瞳の色も…何一つ見逃したくない。そうして目に焼き付けた一つ一つを、魂魄の奥に永久保存出来れば良いのに…。
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