フィデリオ

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 「おはよう、フィ!」  「トーマス、おはよう」  車から降りると幼なじみのトーマスが声をかけてきた。初等科のころからの友人で他のクラスメイトのように自分を好奇の目で見ることはない。  「今日は初の合同授業だよな」  「ああ、うん。」  「どうしたの?なんだかいつもに増して元気がないような気がするのだけれど」  「いや、別に……今日の合同授業は受けないと駄目なのかな」  「何故?楽じゃない居眠りしていたって俺たちβには関係ないしさ」  「俺たちβには」その言葉が胸に刺さる。親友のトーマスにも言っていないことがある。βだと自ら名乗った覚えはない、しかしαであるなどとおこがましくて言えない。他より全ての面において秀でている。αの血がそうさせるのか体も大きく、運動、学業においても抜きん出ている。けれども他より体も小さくましてやアルビノに産まれた自分がαであってはいけない。父親にさえ疎まれている自分が。こうやって目立たずひっそりと生きていけばいつかはこの苦しみも終わる。その日をただ待つだけの人生なのだ。  「いや、今日は体調があまり良くないから保健室で休ませてもらおうかなと」  「無理はしないようにしないと、フィはあまり体強くなんだからさ」  「……ぅん」  合同授業は性に関するものだ。クラスではなくそれぞれの性別で分けられ座らされる。αの列に並ぶ自分を想像しただけでフィデリオはめまいがしてくるのだ。周囲の好奇の視線が集まることを想像しただけで、足が震え始めてしまう。  「ねえ、真っ青だよ。早く保健室に行こう」  トーマスに半分抱えられるように医務室へと向かう。多分これで今日は逃げ切れるのだろう。しかし明日はどうなるのだろうか、逃げ続けていてもいつの日にかきっと自分の運命に捉えられるのだ。そのときは友達も居場所も全てを失うのかもしれないとフィデリオは恐ろしくなっていた。
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