午前3時は屋上で

2/9
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
「どうしたんだい?こんな時間に」  着いた瞬間にこんな言葉を話しかけられて、息が止まり血の気がひくのを感じた。本当に驚いた時は声など出ない。こんな時間だが月明かりで周りはよく見えた。屋上の中央あたりで男性があぐらをかいて、パンを食べている。 人間だと安堵し、呼吸を整え男性に話しかけた。 「あなたこそここでなにをしてるんです。」 「俺は食事してるだけだよ。高いところが好きなんだ。」  60代くらいだろうか。小太りで髪はボサボサで髭もボーボーの容姿の男性だ。しかし服装は小綺麗でとてもホームレスや不審者には見えない。 「ここに用があるのかい?」 今から死のうとしていたのに、ことごとく僕のやることは失敗に終わってしまう。とりあえず今日は無理そうだな。適当にあしらって帰ろう。 「いえ、すぐ帰りますから。」 「なんかあったのかい?ひどい顔だよ」 「え?」 「どんなに嫌なことを無理矢理心の奥に隠しても、顔に出ちまってる。そう いう時はぶちまけちまうのが一番だ。」  そう言って男は瓶に入った牛乳をゴクゴク飲んだ。 「君くらいの若い人だと、大体 仕事か家族のことだろう。俺も大した人生を送っちゃいないが、何かヒントを与えられるかもしれない。話してみないかい。」  初対面の男に悩みを打ち明けるなんて普通ならしないだろう。しかし、今の追い込まれた状況に彼の言葉がとても暖かく感じた。そして彼には何とかしてくれそうな不思議な魅力があった。 僕は自分の今までの順風満帆な人生から転落し、何も上手くいかない現状について彼に話した。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!