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「どうしたんだい?こんな時間に」
着いた瞬間にこんな言葉を話しかけられて、息が止まり血の気がひくのを感じた。本当に驚いた時は声など出ない。こんな時間だが月明かりで周りはよく見えた。屋上の中央あたりで男性があぐらをかいて、パンを食べている。
人間だと安堵し、呼吸を整え男性に話しかけた。
「あなたこそここでなにをしてるんです。」
「俺は食事してるだけだよ。高いところが好きなんだ。」
60代くらいだろうか。小太りで髪はボサボサで髭もボーボーの容姿の男性だ。しかし服装は小綺麗でとてもホームレスや不審者には見えない。
「ここに用があるのかい?」
今から死のうとしていたのに、ことごとく僕のやることは失敗に終わってしまう。とりあえず今日は無理そうだな。適当にあしらって帰ろう。
「いえ、すぐ帰りますから。」
「なんかあったのかい?ひどい顔だよ」
「え?」
「どんなに嫌なことを無理矢理心の奥に隠しても、顔に出ちまってる。そう
いう時はぶちまけちまうのが一番だ。」
そう言って男は瓶に入った牛乳をゴクゴク飲んだ。
「君くらいの若い人だと、大体 仕事か家族のことだろう。俺も大した人生を送っちゃいないが、何かヒントを与えられるかもしれない。話してみないかい。」
初対面の男に悩みを打ち明けるなんて普通ならしないだろう。しかし、今の追い込まれた状況に彼の言葉がとても暖かく感じた。そして彼には何とかしてくれそうな不思議な魅力があった。
僕は自分の今までの順風満帆な人生から転落し、何も上手くいかない現状について彼に話した。
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