午前3時は屋上で

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「なるほどねぇ。何不自由ない暮らしから全部失っちゃったのか。」 「なんか自分が惨めで、毎日が憂鬱なんですよね。」 「でも話を聞くと君には借金もなくて、賃貸の家とこれから収入がなくてもしばらく生きていく貯金もある。マイナスじゃなくてゼロからのスタートってわけだ。」 「ゼロから?」 「そう。だから君にはこれからプラスのことしか起きないってこと。」 「マイナスにだってなりますよね。」 「いいや、君はならない。君は自分に起こったことを決して人のせいにしなかった。全部自分が悪いんだと抱え込んでるから苦しんでるんだ。そんな優しい人間が悪い行動を起こすはずがない。だから君がこれからやることはプラスにしかならないんだ。」    この人が僕を持ち上げたところでなんの利益もない。だからきっと本心で言っているのだろう。いや、この人の目を見ればすぐ分かることだった。真っすぐで少しの曇りもないその目は、僕の心に彼の本心が直接語り掛けるようだった。 「だから行動を起こしまくればいいんだ。別に焦ることはない。できることから一歩一歩やってけばいいんだよ。さあ、もうこんな時間だ。今日はゆっくり寝て明日からまたスタートだ。」  目が覚めたのは久しぶりに午前中だった。彼と話したのは1時間くらいだったが、彼の言葉に救われた。実際自殺しようとしていた人間を救ったのだが、それも含めて新しい自分に変えてくれたのだ。    僕はこの日から行動をおこすようになった。自分に何ができるか、自分の好きなことをノートに書き綴った。それから、どんな仕事ができそうか、合っているか、続けられそうか1日中考えた。ある程度的を絞ったら、その業種で募集している会社を可能な限り受けまくった。  以前の僕は余裕なんてないくせに収入と休日日数だけを見て会社を選んでいた。興味のない職種でやる気が出るはずなく、別に落ちてもいいという気持ちもあった。今日からは違う。彼にもらった命を1秒も無駄にしたくない。そんな気持ちが僕を動かした。  
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