午前3時は屋上で

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 そういえば彼もあそこに行くの初めてだと言っていた。なんとなく夜も眠れずに散歩をしているとあの廃ビルにたどり着いたそうだ。 「定年退職して妻も先に逝っちまって毎日なんとなく過ごしてたんだ。こんなに人としゃべったのは久しぶりだよ。」 「僕も誰にも相談できず孤独でおかしくなりそうでした。」  ああ言ったもののすでにおかしくはなっていた。その直前まで死のうとしていたんだから。でも引き戻された。屋上で出会った一人の男に。    休憩も取らずに作業をしていたので、いつの間にか寝てしまったらしい。もうすぐ午前3時になる。ふと昨日のことを思い出し、考えがよぎる。あの人また来てるかな。別に確信なんてものはなく、いたらいいなくらいの気持ちであの屋上に向かった。途中コンビニでパンと牛乳を買ってきた。いなかったら自分で食べればいいや。そんなことを考えつつ屋上に着いた。そこには昨日とまったく同じ服の彼がパンを食べていた。 「こんばんわ。今日も来てたんですね。」 まだ話したい事や感謝の気持ちを伝えたいこともあって、自然に笑みがこぼれた。 しかしかえってきた言葉は 「誰だい?君は。」 「え?」  冗談で言っているのか。いや、あの目は昨日と同じでとても真っすぐでうそを言っているようには見えない。少しパニックになった。 「えっと・・昨日僕たちここで会っておしゃべりを・・・」 「ここにくるのは今日が初めてだよ。高いところが好きなんだ。」  昨日と同じような返し。いったいどういうことだ。日付もちゃんと経っている。僕がタイムワープしたとかいうSFの世界には入っていないようだ。ほかに考えられる可能性は?例えば彼がアルツハイマーのような病気にかかっているとか。探り探り彼の話を聞いてみることにした。 「勘違いしてました。さっき起きたんでちょっと寝ぼけてたんです。パンでも食べようと思ってここに来たんです。」   そう言ってさっき買ったパンを取り出して見せた。 「君も高いところで食べるのが好きなんだね。一緒に食べよう。」  この日は彼についてのことがとにかく知りたかった。怪しまれない程度に、またあまり深い質問をしないように心掛けた。答えたくない質問をしてしまうと、そのあと心を閉じてなにも教えてくれなくなると思ったからだ。  
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