午前3時は屋上で

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 彼の言葉にまた救われた気がした。僕とは全く違う考え方や生き方に自分がちっぽけに思えた。明日もまたがんばろうという気持ちが湧いてきた。その日も1時間ほどで会話は終わり、彼がいつもの言葉で締めると僕は帰宅した。    次の日、僕は記憶障害についてネットで調べていた。彼から話を聞くに、会った日以前の記憶は覚えているようだ。屋上で交わした時間は1時間程度だが、その間も問題なく会話できている。しかし次の日は記憶が更新されない。いつから記憶が更新されていないのかは不明だが、原因は様々で交通事故や病気で脳にダメージを受けてしまった場合、または大きなストレスなどの心因によってもそのようなことが起きるようだ。その場合毎日同じような行動をおこすらしい。彼は何度も何度も同じ1日を過ごしている。なにかのきっかけで、それまで行っていたことをしなくなったり、逆に始めてしまうこともあるらしいが、彼が屋上に来るようになったのはいつからだろう。もう何年も来ているのだろうか。そんなことを考えていると、俄然彼に興味をもった。今日も行ってみよう。それまでにやるべきことと睡眠を終わらせなければ。  午前3時。いつもの服装とパンと牛乳。お決まりのあいさつにもう僕はすっかり慣れてしまった。しかしこの人の顔を見ると何か相談したくなってしまう。彼について知りたかったはずがまた僕は悩みを打ち明け、彼に解決してもらう始末だった。帰宅してからふと考える。彼の過去やプライベートを知って何になる。僕は彼と話すことで、希望をもらうことができる。自分勝手な考えだが、それでいいんじゃないか。  実際は怖かっただけだ。彼に危険が発覚した場合病院や家族の方に連絡しなければならない。そうなればもう彼に会うこともできない。だからあまり深入りするのが怖かった。そんなもやもやした気持ちを抱えながら今日も眠りにつく。
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