午前3時は屋上で

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午前3時 僕はある廃ビルに向かっていた。心霊スポット巡りや写真が趣味という訳じゃない。死ぬためだ。  今までの人生順風満帆に生きてこられたと思う。割と裕福な家庭に生まれ大学まで行かせてもらった。父親は大企業とはいかないが、そこそこの会社の社長だった。自分も大学を卒業後に10年ほどそこで働いた。しかしつい最近経営が傾き、自己破産という形で倒産した。 家も仕事も財産も全て失った。それだけではない、周りの友人や同僚も離れていった。いや、自分から逃げたというほうが正しい。自分に対する嘲笑や哀れみの目が怖かったし、同僚には申し訳ない気持ちで顔も合わせられなかった。  再スタートのため就活中だが、後を継ぐことしか考えてなかったので今までそんなことはしたことがなかった。それ以前に30を超えて無資格でなんの取り柄もない人間をどこが欲しがるだろうか。すでに20連敗中で、ここ最近は何も行動していない。何もする気が起きず、1日中ぼーっとしている。起きているか寝ているかわからないそんな精神状態で、ふとこんな時間に思い立ったのである。死のうと。綿密な計画をかけて自殺しようとする人はいないだろう。案外死ぬ時なんてのはこんなものかもしれない。 家から数十分ほど歩くと、目的場所に着いた。この建物は元々社宅だったらしい。5階建てのアパート、申し分ない高さだ。入り口に立ち入り禁止の紐が張ってあるだけで、簡単に入れる。自宅に帰る途中によくこの通りを通っていたので、よく知っていた。もうその時から死に場所として無意識に目星をつけていたのかと思うと何とも複雑な気分だ。 紐をくぐり階段を上がる。もう二度とこの階段を踏むことはないのだなと思うと一歩一歩に重みを感じた。しかし、5階まで階段で上がるのは体に応える。屋上に着いた時には息切れと汗でぐしゃぐしゃだった。
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