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「貴様は何者だ」  長く心に溜まっていた言葉をバイゼルハイムは口にした。確かに。確かにそうである。幾ら異常事態が起こっているとしても、このような巨人が堂々と現れたのであれば、その素性を聞くのは道理である。普通の神経ならば、そこまで辿り着く前に、放心してもおかしくはない。しかし、バイゼルハイムは目の前の事実にしか、興味はないのである。 「貴様は何者だ!」  大事なことである。おそらく何度でもバイゼルハイムは口にするだろう。彼は今度は右手を差し向け、人差し指を突き出して声をあげた。常人であれば、その迫力に気圧されて(しか)りである。だが、なんということか。グリーンの何かしらは不動である。そればかりか、己の身分を決して明かそうとはしない。  否、グリーンは、頑なに拒否しているのである。それを示唆するのは、この者の顔である。グリーンの顔には大きなサファイアをはめ込んだかの如き二つの瞳があり、道化師の鼻先に付けられているような丸鼻、そして強い意志を示した真一文字の線が存在している。それらは微動にせず、傲慢にもバイゼルハイムを見下ろしているのである。  ここに至っては、敵意ありと見なし、バイゼルハイムは距離を取る。いくらバイゼルハイムとは言えど、巨人との近接戦闘は避けたいのだ。だが、それは過ちであった。なぜなら、バイゼルハイムの視点が別のものに向いてしまったからである。 「貴様は何者だ?」  相手はグリーンではない。むしろホワイトである。PCと机を粉砕した鉄球が通過した穴の先に、ワンピースを着た女性が立っている。彼女はブラウンの透き通るような長髪に、緑とも青とも取れる麗しき瞳。目尻は少し上がっていて、中央にはしっかりと線の通った鼻と、紫の口紅を施した唇が備わっている。その紫から、高く、重く、静かな音が放たれた。 「バイゼルハイム。お忘れかしら? わたくし、サトリーヌを」  紳士であるバイゼルハイムが、女性の名を忘れるはずがない。いや、天涯孤独の身であるバイゼルハイムに女性の知り合いなどはいないのだ。 この場合どうするべきだろうか? 1 とりあえず誤る 2 私には友達などいないと告げる 3 男の本能に従う 4 グリーンに教えを乞う
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