レベル-2

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 バイゼルハイムは3を選択する。料理を見たことによって食欲をそそられたからである。彼は白い手袋をはめた右手をゆっくりと己の左腕に当てた。そして、速やかに左腕から手を離し、右手の平を返した。そこには手に収まる程度の肉の玉が現れていた。  その肉の玉を口元に近づける。そして、一口、二口、三口と続け、一気に平らげてしまった。なお、この肉はバイゼルハイム自身の肉であるかどうかは証明できない。  食事を終えたバイゼルハイムは余裕を持って、またも周囲を見渡す。すると、更なる異変に気付く。テーブルを挟んだ対面にある椅子に何者かが腰掛けているのである。  蝋燭の光で照らされるその者の身体は赤にも茶色にも見える。だが人型であり、他の特異な点と言えば、脇、腹、腰当たりから腕まで続く、羽のような物が存在するくらいである。人間にコウモリの羽を後付したような姿だ。その者の口から不快でよく響く声が漏れ始めた。 「知ってるか? バイゼルハイム。己が犯したミスによって、放たれたグリーンは、今やこの国を壊滅に追いやらんとするほどの被害をもたらしているぞ。にも関わらず、このような暗闇で遊び呆けているとは。笑えるな」  見事なほどに人を不愉快にさせるテンポでコウモリ男は言葉を紡ぐ。あまりにそれが際立っているためか、むしろ芸術にも等しい価値を見出(みいだ)している。その秀逸な言葉を受ければ、何ほどよりも大きな心の揺らぎが現れそうなものである。  たが、そこはバイゼルハイム。まるで動じる気配はない。 「己の悪徳を知れば、少しは震えるべきだ。涙一つでも流せば、多少の同情は買えるかもかもしれないぞ?」  中傷を得意とする悪魔の一種。そのように見受けられる発言を、コウモリ男は続けざまに吐く。ただ、彼も生物であり、言葉を発すれば、喉が渇く。手元にあったグラスに手をかけ、何とも知れぬ液体を僅かに口に注ぐ。潤いを得た口からはまたも不快な声が発せられる。 「今とて、己の目的を果たすことに躊躇(ちゅうちょ)している。そうだろバイゼルハイム。でなければ、そのようにゆったりとしてはいられない。……まさか。まさかとは思うが、目の前に存在するものが何か気付いていないなどと、愚かなことを言うまいな」  ここにきてバイゼルハイムは耳をぴくと動かす。どうやらコウモリ男の言葉の中に彼の心を動かすものがあったようだ。バイゼルハイムは己の両足に重心を置き、椅子のやや前方にて直立した。 「グレーデル。感謝する」  端的ではあるが、コウモリ男に謝辞を伝えつつ、バイゼルハイムはスープの入った器に慎重に右の白の手を添えた。 「手応えあり」  バイゼルハイムの低く良く通る声が木霊した。彼は額に汗を垂らしている。そして、汗が鼻にかかるころに、スープの器に添えた白の右手を、天に掲げた。すると。  確かにそこには変動が訪れた。土壌に覆われた地面が二つに割れ、バイゼルハイムの前方と後方の隅から地面が隆起を始め、そのまま、バイゼルハイムとこうもり男を挟み込んだのである。  しかして、ある程度の予期があったのか、それらの動静を見破ったバイゼルハイムは、両手で迫る地面を押し留めることに成功している。その隙間で自由に動くコウモリ男は名が表す通り、凹凸のある天井の岩盤に足を着き、バイゼルハイムを上から見下ろしている。  この後、バイゼルハイムはどうすべきであろうか? 1 白の左手を使い、隆起した地面を粉砕する 2 白の左手を使い、コウモリ男を粉砕する 3 あの言葉を使用する 4 両手を離し、大人しく轢死する
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