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プロローグ
………深い霧の中を、少年は歩き続けていた。
自分は何故、歩いているのか?自分は何時から歩き続けているのか?そして、自分は一体、何処へ向かおうとしているのか。その様な事すらも判らぬままに………。
そこは、辺り一面、見渡す限りの霧に包まれた未知の世界。地平の彼方すらも深い霧の中に沈む、途方も無く何重にも白く塗り付けられた画用紙の中の様な世界である。
先に進めば進む程に、深い霧の渦の中へと吸い寄せられて行く。もがけばもがく程に、その存在は混沌の世界へと誘われてしまう。
………正に未開の地である。
しかし、少年は、その様な事柄には臆する事無く、前へ前へと歩み続けた。
突然、少年の肌を何かが切り裂いた。それは、どうやらナイフの様に尖った氷の破片みたいである。更に、細かい氷の破片が刃の如く、少年を目掛けて降りしきった。
少年の身体を氷の刃が切り刻む。
少年の肉体は、やがて、皮が破れ、真っ赤な鮮血が噴き出した。しかし、少年は苦痛を堪えながらも、前へ前へと歩み続けた。
最早、少年の行く手には、極寒地獄が待ち構えているばかり。それでも、少年は息絶え絶えになりながらも、懸命に先へと進んで行った。
それから、どれくらいの刻が流れたのであろうか?遂に、少年は力尽きてしまい、その場に倒れ込んでしまった。氷の刃に傷付けられた身体の痛みも感じられなくなってしまう程に、…少年の肉体は疲れ切ってしまっていた。
少年は何事も為す術も無く、只々倒れたまま、辺りの様子を窺っていた。
暫くすると、遥か地平の彼方がボンヤリと晴れて来るのが感じられた。その時である。突然、天から一筋の閃光が差して、少年の辺りを包んだ。
すると、どうした事であろうか?
今迄、深い霧に包まれていた世界に、ようやく景色が見え始めたのである。少年は身体を少し起こして、辺りを見渡した。そこは、どうやら名も知れぬ平原であった。そこら中草だらけで他には何も無い。
「オォォォ~~~ィ!」
少年は、残っている気力を振り絞って、大声で助けを求めた。しかし、辺りには人のいる気配は無かった。少年は、それでも気力を振り絞り、何度も何度も叫び続けた。
ふと、遠方に眼を凝らすと、小高い丘の麓に一軒のロッジがある事に気付いた。ログハウス調の造りで、煌びやかさには少し欠けてはいるものの、背に腹は変えられないでいる少年にとっては、砂漠のオアシスみたいなモノである。
しかし、少年には、人の気配をそのロッジの辺りから、ひしひしと感じる事は出来ていた。
少年は立ち上がり、そのロッジへと向かおうとしていた。しかし、これ以上、身体を動かす事は、彼にとっては耐え難い苦痛であった。
少年は、思わずよろめきながら倒れてしまった。
彼は、もう一度、立ち上がろうとするのだが、身体がどうにも動かない。既に、彼の意識は朦朧としていた。そのまま深い眠りへと誘われてしまおうとする少年。すると、丁度、其処へ一人の少女が通り掛かったのである。
「………どうしたの?」
少女は、瑠璃色に輝く長い髪を靡かせながら、パッチリとしたコバルトブルーの瞳で、少年の顔を覗き込む様に見つめていた。
「………………………………………。」
少女に声を掛けられた事が、安堵感へと繋がってしまったのであろうか?少年は、その場で意識を失ってしまった。
「ちょっと、どうしたのよ?………ひょっとして、死んでしまったの!?………ヤダァ、夢見が悪くなるじゃない~~~。」
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