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少女の名はエミル
少女が、思い出したかの様に呟いた。
「あっ、そうだ。私、まだ、自己紹介して無かったわよね?」
彼女は、僕の目の前で、少し乱れた髪を両手で整えながら、そして、言った。
「私、エミルって言うの。………ところで、アナタのお名前は?それと、アナタって、何処からこの世界へやって来たの………?」
「僕は、僕の名前は………。」
………あれ? ………僕の名前は何だろう。
僕は、その時になって初めて、今迄の記憶は疎か、自分の名前すらも記憶に無い事に気が付くのであった。
「僕は、………分からない。僕が誰なのか。それから、僕が何の為にこの世界にいるのかさえも。」
エミルは、少し表情を曇らせながら呟いた。
「………そうなんだ。………アナタも、記憶が無いんだね。」
「アナタもって、ひょっとして、君も記憶を失ってるのかい?」
「えぇ………。憶えているのは、エミルって言う名前だけなの。」
「…………………………………………。」
その時、エミルは会話の踵を返すかの様に、少年に問いかけた。
「それより、アナタ、お腹空いてないかしら?今なら、温かいスープが美味しいよ………。」
「………有り難う。お言葉に甘えて、頂くよ。」
僕は、エミルに出された温かいスープを、夢中の余り、「ゴクリッ!」と飲み干してしまった。
「………ご馳走様。恩に切るよ。それより、何だか疲れてるみたいだ。少しの間、休ませて貰っても良いかな?」
「………えぇ。」
そして、僕は暫くの間、眠り続けるのだった。
それから一体、どれくらいの時間が流れたのだろうか。ふと、僕は目を覚まして、傍らに目を見張ると、エミルが椅子に腰を降ろして、僕の事を、ずっと見つめている。
僕は思わず、彼女に声を掛けた。
「………エミル。………どうかした?」
「私、遠い昔、アナタと何処かで出会っていた気がするのよね。」
「………え、僕と?」
でも、僕には、そんな記憶なんて無い。それに、第一、僕は自分の名前すら覚えてもいないものだから………。僕は、エミルに問いかけてみた。
「………エミルは、何時から、この世界で暮らしているんだい?」
彼女は答えた。
「………分からないわ。気が付いたら、既にこの世界にいたんだもの。………名前はエミル。覚えてる事は、たったそれだけ。でも、近頃になって、そんな事も余り気にならなくなっちゃった………。」
エミルは平然と答えた。そんな彼女に、僕は話し始めた。
「エミルは、名前があるだけマシだと思うけど。でも………。やっぱり、僕は、自分の記憶を探したい。僕は一体、何者なのか?どうして、この世界に迷い込んでしまったのか?それに…。第一、僕には自分の名前すらも記憶に無いから。」
エミルが僕に言った。
「………名前の事なんだけれど、私が一緒に考えて上げても良いわよ?」
エミルは、確かに僕にそう言った。
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