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少し木々が途切れ、開けていた斜面の場所から、また深い森の中に入る。
冬眠中じゃなきゃ、クマが出そうだな、と思いながら、ほとりは言った。
「殺されましたって謝る人、初めて見たわね」
昨夜、男は、ほとりたちの前で土下座し、言ってきた。
「自分、桧室と言います。
取り立て屋です。
昔、ヤクザやってたんですが。
組がゴタゴタして、分裂して。
誰の下につくかなーと思ってる間に、なんだか乗り遅れて。
気がついたら、職もなく、知り合いのつてで、取り立て屋の手伝いを」
ヤクザの身の上話、初めて聞くなあ、と思いながら、男と向かい合うようにしゃがんだまま、ほとりは聞いていた。
「それが、今回の取り立てで、ちょいと相手を追い詰めすぎまして、殺されてしまったんです」
あんな真面目そうで、ひ弱な男だったのに、と桧室は言う。
「私も殺されたのは初めてなんで、動転してたんですが。
ともかく、最初は腹が立って。
お前が経営難で金借りたのに、なんで俺を殺しやがったんだって思ってたんですよ。
でも、この納屋の前で、何度も女を殺してるばあさんを見て。
その必死の形相を見てたら、なんだかつられてこっちも悲しくなってきて。
うちの田舎のばあちゃんの顔とか思い出したり。
そのうちに、あの自分を殺した男の悲壮な顔を思い出したんです。
殺す方も楽じゃないんだなと思って。
……姐さん」
姐さん!?
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