何処の強姦魔だ

20/42
前へ
/335ページ
次へ
 少し木々が途切れ、開けていた斜面の場所から、また深い森の中に入る。  冬眠中じゃなきゃ、クマが出そうだな、と思いながら、ほとりは言った。 「殺されましたって謝る人、初めて見たわね」  昨夜、男は、ほとりたちの前で土下座し、言ってきた。 「自分、桧室(ひむろ)と言います。  取り立て屋です。  昔、ヤクザやってたんですが。  組がゴタゴタして、分裂して。  誰の下につくかなーと思ってる間に、なんだか乗り遅れて。  気がついたら、職もなく、知り合いのつてで、取り立て屋の手伝いを」  ヤクザの身の上話、初めて聞くなあ、と思いながら、男と向かい合うようにしゃがんだまま、ほとりは聞いていた。 「それが、今回の取り立てで、ちょいと相手を追い詰めすぎまして、殺されてしまったんです」  あんな真面目そうで、ひ弱な男だったのに、と桧室は言う。 「私も殺されたのは初めてなんで、動転してたんですが。  ともかく、最初は腹が立って。  お前が経営難で金借りたのに、なんで俺を殺しやがったんだって思ってたんですよ。  でも、この納屋の前で、何度も女を殺してるばあさんを見て。  その必死の形相を見てたら、なんだかつられてこっちも悲しくなってきて。  うちの田舎のばあちゃんの顔とか思い出したり。  そのうちに、あの自分を殺した男の悲壮な顔を思い出したんです。  殺す方も楽じゃないんだなと思って。  ……(あね)さん」  姐さん!?
/335ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1209人が本棚に入れています
本棚に追加