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対向車のない広い田舎道だからでもあろうが、飛ばしすぎだ。
上から見ていても、なかなかの技術ではあったが――。
この寺は少し高台になっているので、集落全体がよく見渡せる。
それにしても、よくわからない女だ、と環は思っていた。
だが、親から押し付けられたあの嫁をそのまま此処に住まわせたのは、あの天気のいい霧雨の中、
「貴方に助けてもらった狐です」
と言ってきたその姿が、阿呆なセリフに反して、美しかったからだろうか。
だがまあ、あんな女に、こんな田舎暮らしは無理だろう。
早々に音を上げるに違いない、と思いながら、環は本堂に戻ろうとした。
そのとき、ふうっと裏山から風が吹いてきた。
その風に混ざった匂いに、思わず、顔をしかめる。
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