古道具屋の繭

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 そうなんだーって、なんなんだー?  相変わらずなテンポのほとりを呆れたように繭は見ていた。  カウンターに座るほとりは、いつものように、この町に、それはどうだ? というようなワンピースを着ている。  この人は、郷に入っては郷に従えという言葉を知らないのだろうか、と思いながら、繭は眺める。  以前、なんでいつもそんな格好なのかと訊いてみたら、 「お金がないから」 という実にあっさりした答えが返って来た。  金がないので、服を買いかえられないというのだ。  いや、全然なさそうに見えないんだけど……。  まあ、変わり者の環とはお似合いな人だな、と思っていると、店内を見回していたほとりは、 「ねえ、あれって、いつも、感無量に見えるんだけど」 と言ってきた。  そんなほとりの視線の先には壁に飾られた横長の額が――。  『無量寿(むりょうじゅ)』という阿弥陀仏を言いかえた、ありがたいお言葉が、太く達筆な字で書かれいる。  ほとりさん……。  本当に賢いんだかなんなんだかわからない人だ、と思いながら、食べ終わり、立ち上がったほとりに、 「六百円でーす」 と力なく言った。
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