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環に本堂から押し出されたほとりは、繭の店へと行っていた。
古く厚みのあるガラス戸から覗くと、繭はカウンターに倒れていた。
カランカランと鐘の音のするそのガラス戸を開けながら、
「繭ー。
死んでるのー?」
と言うと、繭は、むくりと起き上がりながら、
「死んでたら、もっと驚いてー」
と言った。
少し欠伸をしながら、カウンターの上のやりかけのクロスワードを閉じ、端にあった目覚ましを止めている。
「あ、それ。環のと同じ」
とその目覚まし時計を見て言うと、
「そりゃ、小学校の卒業記念だからね。
環も使ってんの? 物持ちいいね」
と自分も使っているくせに、繭はそう言い、笑っている。
「目覚ましかけて寝てたの?」
「いやあ、クロスワードやってると、よく寝ちゃうからさ。
一応、やる前には目覚ましかけてるんだよ。
客が来たら起こすとは思うんだけどさ」
よく寝ちゃうって……。
「実は嫌いなんじゃないの? クロスワード」
と言ってやると、
「やってる間は他のこと、考えなくていいからねえ」
と言って笑っていた。
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