古道具屋の繭

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  『見合いってすごいよね』  そんな繭の言葉を思い出しながら、ほとりは車を母屋と離れの間に止める。  環は庭の水道の前に立っていて、なにもない空間を見て、笑っている。  いや、なにもないわけではない。  そこに犬が居るのだ。  だが、その犬は、恐らく、自分と環くらいにしか見えていない。  そこでようやく、環は顔を上げ、 「お帰り」 と言ってきた。  いや、今、気づいたのか、とほとりは思う。  車の音がしてただろうが。  私は、霊体の犬より、気配が薄いのか……? と思いながら、 「……ただいま」 と言う。  今、生きていない犬と話していたときの顔は可愛かったのに、こっち向いたら、仏頂面だなあ、と思いながら、 「お土産」 と環に、おせんべいの包みを差し出す。 「散髪屋さんの前通ったら、おじさんがくれたの」
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