1203人が本棚に入れています
本棚に追加
/335ページ
「せっかく住職さんが来てくれたのに、居なくなっちゃったら困るものね。
ああでも、どうせ、環ちゃんは町に帰っちゃうのか」
そうだといいんですけどね。
っていうか、早く帰りたいんですが、とほとりは思う。
此処の暮らしも悪くはないのだが、生まれ育った場所と違いすぎて、なかなか馴染めない。
それにしても、聞いたら住めなくなるほどの怖い話ってなんなんだろうなあ、と思いながら、母屋の向こう、庭の端にある蔵を眺める。
今のとこ、陽気な霊にしか出会ってないけど。
同じもの見ても、人によって受け取り方違うからなー。
あの松の木のおじさんだって、人によっては怖いだろうし、と思いながら、そうっと蔵に近づこうとして、後ろから、
「ほとりっ」
と環に怒鳴られた。
振り返ると、
「……早く手を洗え」
と言われる。
はいはい、とまた適当な返事をしながら、ほとりは母屋へと向かった。
最初のコメントを投稿しよう!