古道具屋の繭

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「せっかく住職さんが来てくれたのに、居なくなっちゃったら困るものね。  ああでも、どうせ、環ちゃんは町に帰っちゃうのか」  そうだといいんですけどね。  っていうか、早く帰りたいんですが、とほとりは思う。  此処の暮らしも悪くはないのだが、生まれ育った場所と違いすぎて、なかなか馴染めない。  それにしても、聞いたら住めなくなるほどの怖い話ってなんなんだろうなあ、と思いながら、母屋の向こう、庭の端にある蔵を眺める。  今のとこ、陽気な霊にしか出会ってないけど。  同じもの見ても、人によって受け取り方違うからなー。  あの松の木のおじさんだって、人によっては怖いだろうし、と思いながら、そうっと蔵に近づこうとして、後ろから、 「ほとりっ」 と環に怒鳴られた。  振り返ると、 「……早く手を洗え」 と言われる。  はいはい、とまた適当な返事をしながら、ほとりは母屋へと向かった。  
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