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<そして物語>
「ご講演をお願いしたいのですけど、いいでしょうか。その、ギャラはもちろんお支払いします」不意にアポなしで現れたその青年は、ちょっとすまなそうに言った。
長身を少し丸めて、どこかでいつも”人に謝っている”のではないかと思わせるところがあった。栗色の逆巻く髪、白い肌と端正な切れ長な顔は、たぶんに彼が白人と日本人の両親の間の”混血児”であるとすぐに彼にもわかる。その髪型、右の顔面を大きく隠すのが、彼の特徴であったのだろう。
「それは、予定があいていれば、いいですが」
「予定は・・東先生のお時間が許す中で、最短がありがたいのですけど」
「なるほど」
「参加人数は、仲間内で少ないのですけど、いいですか」何か、探るように、東丈に招き入れられたその青年は言った。
「サークルか何か、ですか」
「ま、そんなもんです」
「見てのとおり、仕事場なので。別に常駐で秘書がいるわけでもないので。私が飲んでいるコーヒーでいいですか」
超常現象研究家である東丈、むろん、講演会の依頼もないわけではないが、目の前の青年のように事務所にまで押しかけてくるのは、まず、ない。だいたいは、電話で基本は済み、その後別途近くの吉祥寺商店街の喫茶店で落ち合って話を詰める段取りが普通なのだ。
「ええ、結構です」
「えっと、砂糖とか、ミルクあったはずだけど。あれ、どこだろう。仕事柄、私はブラック党なんでね、ジョウさん・・でいいのかな」
奇遇なことに、その栗色の髪の青年もジョウという名なのだった。
名前は、島村ジョウ・・もっとも、或る意味、彼のその容姿自体が、彼の名刺のようなもので。世界でも有名な”カミカゼ・レーサー”であり、正直、そんな彼が、突然自分の事務所の扉の向こうに立っていたときには、東丈もぎょっとしたものである。
「ええ、結構です。どうも、シマムラさんと呼ばれると、誰のことかと思っちゃう時があるんです」ジョウは、照れたようにいった。
「なるほど。しかし、あなたのような国際的レーサーが、私のような人間の話を聞きたいとは」
「サークルの一人から推薦があって、で、僕が来ました」
「なるほど」めずらしいが、”金持ちの道楽でオカルト話が聞きたいといったところか”と思う東丈であった。
「で、どんなお話をしたらいいのでしょう?超常現象といっても、いろいろ広いですから」
「”天使”あるいは、”神々”について、です」ジョウが言った。
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