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 休みが明けた。重い腰を持ち上げて向かった学校では、ブレザーを脱いだ光輝く白い衣が教室を覆っていた。窓から吹く風で波うつ白い衣は、少しずつ夏の訪れを感じさせた。        いつくるか、いつくるか バクバク鳴る心臓を抑えながら、先生から配布された用紙を見る。進路希望調査表。弱冠17歳にして将来を決めないといけない。簡単に決められるものじゃない。第一希望…父に会社を継げと言われているが私にその器があるのだろうか。自由にいきたいという気持ちもあるが、それもまた不安である。空は父の工具屋を継ぐのだろうか。  放課後、いつもの砂浜で空に聞いてみた。 「俺学校やめて絵描きになろうと思うんだ」 授業中はノートに、放課後は砂浜に絵を描く、キャンパスを選ばない彼にはピッタリかもしれない。 「でもちゃんとした職に就かないと将来を不安じゃない?」 嫌みっぽく聞いてしまった。ちゃんとした職ってなんだ自分でも分からない。 「今は挑戦してみたいんだ」 彼の眼差しが夕陽に照らされ紅く光る。 「偉い、自分の道を自分で決められるんだね。でも学校をやめる必要ある?」 と聞くと、あぁとなずいた。今すぐにでも行動したいのだろう。 「海晴のいう道ってなんだよ。俺はさ…」 彼は思うこと全部を話してくれた。彼の話をたくさん聞いた。 彼が登る階段には、私が乗ろうとしていた経営者へのエスカレーターにはない"踊り場"があるのだ。 ──よく、道は1本じゃない。とか、どの道を行くか決めるのは自分だ。とか、自分が行く道は自分で決めろ。とかって言う。でも彼は、もともと誰かによって作られた道は歩かないだろう。 彼は跡が残る歩き方はしない。決められてるのに従うこともないし、誰かに自分と同じ道を歩いて欲しくもない。 例えばそこが草原なら、もちろん道ではなくて草木をかき分けて草原の上を歩くし、例えばそこがジャングルで、信じられないくらいの猛獣だらけの場所だとしても、道ではなくて木々の間を歩いて見せるだろう。もしそれで大変なことになっても、彼は後悔はもちろん反省すらしないだろう。思いのまま生きられているのなら。  翌週、学校に彼の姿はもうなかった。 彼の見ていたものを見てみたくて、今まで見ていた道を一歩逸れてみた。今日も晴れた空を海が写す。道なき道のりを歩もうか。
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