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晴れた海
──透き通った空色の波が砂浜でシュワシュワと音をたてる
昨年、母が病に倒れ帰らぬ人となった。
父は会社の経営者で忙しく、ほとんど家にいない。
まだ高校生の私は、この春から母の故郷、海辺の町にある叔母の家に居候する事になった。高校三年生での転校。
それから幾分か時は過ぎ、ゴールデンウィークになった。空色の海、砂浜を歩いていた。この町に来てから放課後よくここに来てしまう。なんだか癒される。後ろから私を呼ぶ声がした。
「海晴ちょっとこっちきなよ」
海が晴れるとかいて海晴(みはる)。私は、この町で産まれた。晴れた空の色が写る海が好きな母がつけてくれた名前だ。振り替えると背の高い男がいる。転校初日から話しかけてくれた空(そら)。町の工具屋の息子だ。
「みてみて、これフニフニ」
目が線になるほどニタニタした笑顔で見せてきたのは、海岸に打ち上げられたクラゲ。こんな事で喜べるこいつは幸せだろうな。
「クラゲって脳がないらしいね。死んだ事にも気付かないのかな」
空は呆れた顔をしながら
「まーたくらい事を考えてるな」
クラゲをつついて喜んでるこいつよりは、よっぽとマシではないか。しかし、私のマイナス思考は、かなりのものである。出会って間もない空に自分のマイナス思考についての相談をしたことがある。その時、彼に言われた
──マイナスドライバーじゃないと開かない箱もあるんだぞ
という言葉に助けられ、それから、大和とはよく一緒に行動するようになった。
波の音を聞いていると癒しと同時に不安の波が押し寄せてくる。波は泡立ち次第に消えていくが、私の不安は消えない。この休み明けこいつと戦うことになる。
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