制服は、特別になった。

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体育館中に、同じ制服が幾百と並んでいる。 その群れにはきっと、中身さえ同じにしようとする力が働いているのだろう。 今はそれに逆らう理由はない。その力に身を任せて―― 「新入生の言葉。新入生代表、金澤 華さん。」 さっきまでの校長と名乗る初老の男性に代わり、壇上に上がるのは、同じ制服の同級生だ。 でも、同じなんかじゃなかった。 彼女は、誰よりも煌いて見えた。 「私は、この晴天の下、桜にも祝福される中で、御校に入学できることを……」 内容なんか耳に入らない。ただ、その声は美しい。 気づけば私には、彼女しか見えていなかった。 「それが私とハナちゃんとの出会いだったわけです。」 あの入学式からもう四年ほど経つ。 今でも彼女の煌めきは変わらずに、ただ前よりずっと近くなっていた。 「うん。その時は私からあなたへの認知なかったけどね。」 「そ、れ、で、その出会いを忘れずに大切にしていきたいわけですよ私は。」 「そうだね。思い出として大切に胸の奥底にしまっておこうね。外には出さないでね。」 「そんなこと言わずにっ! お願い! あと一回だけだから! 制服を! 着てください!」 そう。私は今、恋人となった彼女に、あの日来ていた制服をまた着てほしいと、頼み込んでいる最中だ。 「いや、それ家デートの度に同じこと言ってるよね。いったいあと何回、『あと一回』があるんでしょうかぁ?」 「でも結局毎回着てくれるハナちゃんすきよ。」 「ま、た! そうやって誤魔化そうとする!」 「誤魔化そうとなんてしてないよ。ホントのこと言ってみただけだもん。」 「そ、そう。でもとりあえず、今日は着ないから。」 「むー、花ちゃんのケチー。ちょっとくらい来てくれたって良いじゃないかさ。」 「いや、もう卒業して一年だよ? この制服、着れなくなっててもおかしくないくらいだからね? 実際ちょっとキツいし。それに恥ずかしいよ。そっちも制服を着せようとする趣味、恥ずかしいと思った方が良いよ。」 むう。確かに前着たとき胸周りとかがちょっと苦しそうだったけど……でもたぶんそっちは本音じゃなくて、恥ずかしいと言うのが本当の着たくない理由だろう。 「別に私は女子高生のハナちゃんを押し倒してるみたいで背徳間があって興奮するから着せようとしているわけじゃ……だけじゃないもん!」 「そこまで言ってないよてか何口走ってんの引くわそれになんでそこ言い換えた。」 「ハナちゃん! ハナちゃんが卒業した後も制服を着なかったら、制服を着てるハナちゃんは、高校生の時のハナちゃんだけになっちゃうんだよ! ハナちゃんはそれで良いの!?」 「別に、それで良くない?」 「よくないよ! もう。ハナちゃんが制服着てくれないなら、もう私帰るもん。」 言ってもわからない子には、最終手段をとるしかないね。 「帰るって、もう!? ち、ちょっと待ってよ!」 そう。ハナちゃんは見かけによらず寂しがり屋さんなのだ。 「じゃあ、制服、着る?」 「ええと……それは……」 「じゃあねー、ハナちゃんまた明日大学でー。」 「待って着るから! 制服着るから待って!」 ちょろいな。 と、いうことで、制服を着てくれた。 「良い! 何が良いって、ハナちゃんが私のためだけに着てくれるからいい! 特別なハナちゃんが、私のために特別に着てくれるから、だから特別に良い!」 「そ、そう……喜んでくれるのは、嬉しいかも……」 窓からの夕日に照らされるハナちゃんは、私だけに煌めいている。 「……あと、やっぱり今の私よりちょっと幼い日のハナちゃんを前にしてるみたいでそそるものが……」 「ちょ! やっぱりそういうことじゃない!」
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