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その晩、七色は夢を見た。半ば予期していた、されど予期せぬ邂逅に、在りし日の記憶が刺激されたのか。
今の今まですっかりと忘れてしまっていた他愛のない日々のひとかけら。
『今は”シロちゃん”の物語の端役にしかなれない非力なばかりの僕だけど、もし、この先……ここではない何処かで君と出会い直す事が出来たのなら――』
それは、違えられた約束に寄り添う、もう一つの約束。
『――自己犠牲を厭わない心優しいシロちゃんを。誰かの代わりに傷ついてしまうシロちゃんを。そっと助けてあげられる主人公になりたいって思うよ』
そこで不意に意識が覚醒した。カーテンの隙間からはやわらかな朝の陽ざしが差し込んでいる。七色は夢現つに天井を眺めた。
胡乱とした頭で夢見の内容を反芻する。当時から、その男の子は迂遠で語り部めいた言い回しをして七色を困らせる事が多々あった。
深く考えても分からないし、解説を求めてもさらりと流されてしまう為、強い思い出として残らなかったのだろう。
「……出会い直す」
端役として登場した男の子は、突如として七色の物語から姿を消した。別れだ。もし互いに正体の分からぬまま出会う事があれば、それはまさしく出会い直しと言える。
「シロくんの正体が、平野恵流だったら……」
学園に入学してからの出来事を振り返る。七色は直感的に、この思考は不味いと思った。だが、一度繋がり始めてしまった発想は行き着くべき場所まで止まらない。
本意はどうあれ、恵流は悪意に怯える菖蒲を傍らでずっと守っていた。疎遠になりつつあった菖蒲との縁が徐々に修復されていく切っ掛けは、誰からもたらされただろうか。
運命というあやふやな言葉が浮かぶ。望まぬ事もあった。裏切りの数は多く、心は不信に曇った。だが、七色が本当に大切にしているものをこそ、恵流は――。
「っ」
いや、まさか、そんなことは。おかしいだろう。回転の鈍かった寝起きの段階はとうに過ぎていて、七色の仮説が熱を帯びるのも早かった。
「メルヘンにも程があります」
火照った頬には気づかないフリをして、七色は急くように身体を起こして洗面所に向かった。程なくして鏡面で自分の顔を検めて悶える事になるとも知らずに。
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