三章:本当の自分

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と、そこで陽が不意にあからさまな溜息を吐いて何事かと関心を集める。 「あーだーこーだ面倒くさいので、自分で聞いてほしいのですよー」 陽の指をスライドさせるジェスチャーは、七色と菖蒲に端末(バングル)の機能のタスクを切る動作を思い起こさせた。 「あ、ごめんなさい。プライドの高いうちの姉がですねー、どーしてもと言うので通話を繋いで盗聴させてあげてたんですけど、陽を質疑応答のマッシーンにしようとしていたので切っちゃいました」 「彼女にもきちんと招集をかけた筈ですが」 「やー、メッセージの確認すらしてなかったみたいで、いつもの『馴れ合いはしない』みたいな事を宣ってすっぱりぶっちしてた訳です。用件があるなら直接言ってね? まあ会ってあげられるかはわからないけどね? ふふん? なんて顔してたんでしょうね」 「想像、できるかも……」 「それで、その顔をちょーっと歪ませてやりたくて、先輩の報告を簡単に速報したら鬼のように通話を繋ぐ催促が来たのですよ」 「いい笑顔してるなぁっ!」 「これから意地が勝つか興味が勝つか、それとも未来への不安が勝るか見物なのですよ。場合によっては、もう――ああ、これがそうですかねー?」 階段を怒涛に上ってくるゴリラのような足音が一堂の耳朶を打つ。そして、数秒後。ダンッという激しい着地の音と共に、青みがかった黒髪を柳のように風に靡かせて現れる。 「……ぜぇっ……はぁっ、くっ。すうっ、はぁっ! はふ」 月は壁に手をつき腰を折り膝にもう一方の手を当てて息も絶え絶えだった。 「コーッ……コーッ……」 「ははははっ、ルナってばダース〇ーダーのモノマネが上手なのですよー!」 「おっ……ま、えっ、ごふっ」 見る者に血を吐いたと幻視させるような見事な咳に、イリスがルナの元に慌てて駆け寄って背中を摩る。 「まずは呼吸を落ち着けましょう。吸って。吐いて。そうです。吸って――」 「――吸ってー。吸ってー。もういっちょ吸ってー?」 「……陽」 「はい?」 「歯ぁ食いしばれぇっ!」 「暴力反対ー!」 逃げる桃色。追う群青。白色の少女は冷たい眼差しで彼女たちを見送りながら言う。 「こういった非生産的なコミュニケーションを馴れ合いと言うのでは」 「あはは……片方は本当に怒ってるみたいだけどね」 もう片方は実に楽しそうである。小悪魔の妹は悪魔だった。その戯れが終息する頃には昼休みも終わりが近づいていた。
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