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近重の一言に観衆の関心が熱を帯びる。驚いた少年が咄嗟に七色の脚の後ろに回り込んだ。
七色は「大丈夫ですよ」と言って、安心させる為に笑顔を浮かべてみようとしたが、相変わらずの無表情だった。反して、近重が意外な対応を見せる。
「悪いな。ビビらせちまったか。別に取って食いやしねぇよ」
乱暴な口ぶりとは裏腹に、近重は屈んで少年と同じ目線になるや、歯を見せて笑いかける。何と自然な所作なのか。無性に悔しさを覚える七色である。
少年が暫らく近重を品定めして、おずおずと七色の影から出ると不意に腕が伸びてきた。きゅっと身を固くした少年の頭を、わしゃわしゃと乱暴に撫でつける。
「ここにてめぇを虐めようとする奴はいねぇよ。わかったか? わかったなら、堂々としてろ」
こくり。
「よぅし、いい子だ。まぁ、仮に質の悪い輩がいたとしても、俺よりもよっぽどおっかねぇ奴が守ってくれるだろうから安心していいぜ」
「やけに手慣れてますね」
「歳の離れた兄弟に鍛えられてるからだろーな」
「はぁ、なるほど。それで、おっかないって誰の事ですか」
「おっかない目を向けてくんなよ。ガキが見てるぜ?」
軽口を叩きながら、近重が緩慢に立ち上がる。
「さってと、話を戻すか。このガキはなんだ? ただの見舞いって言ってたよな」
真実をありのままに告白しようものなら、七色の正気を疑われてしまうのが目に見えている。かと言って、近重は仲間と呼べる間柄。適当な嘘で誤魔化すのは七色の信条に悖る。
直截な質問をぶつけられて答えに窮する七色に、周囲は後ろめたい何かがあるのかと勘ぐり始めた。
――霧羽と同じ純白の髪。
――鶴来とそっくりな血の色の瞳。
――ま、まさか! 隠しg
「いやてめぇらバカかよ」
おかしな結論が出る手前で、近重が憮然と突っ込んだ。
「常識的に考えたら親戚だろ。そういえば、霧羽と鶴来も血縁があるって話だよな」
「厳密に言うなら、あたしと菖蒲に血の繋がりはありませんが」
「ははぁん。読めてきたぜ。突然ガキが遊びに来たが、鶴来の風邪が感染るのを避ける為に、てめぇが預かる事になったって流れか?」
――だったら最初からそういえばいいじゃないか。
――第一、生徒ですら出入りの管理の厳しい源王学園に子供が一人で来られる訳がない。
正鵠を射たガヤに、近重の肩が震える。
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