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源王学園が有する五十ヘクタール弱の敷地は、明確に四つの区域に分けられている。それぞれの呼称は四神に由来している。
恵流や菖蒲の寮がある青龍エリアは東側に位置する。各種球技場や部活用品を取扱う商店などがひと通り揃っている為、主だった運動系コミュニティの活動拠点となっている。
商店エリアの別名で呼ばれることもある多種多様な商店が軒を連ねる南の朱雀エリアは、調理や服飾などを趣味とする女子に人気が高い。当然、そういったコミュニティの御用達となっている。女子寮があるのはここだけだ。
西の白虎は娯楽のエリア。放課後を遊興に使うとすれば、選択肢の八割以上がここに存在していると言っても過言ではないだろう。
北の玄武エリアは白虎とは正反対の特徴を持つ。一角を掠めるように清流が流れているこの玄武エリアは自然との調和が前面に押し出されている。
時刻は正午を過ぎ。菖蒲とイリスはやわらかな木漏れ日を浴びながら枯れ葉に縁取られたアスファルトの道を並んで歩いていた。
「わたくし、玄武えりあに来たのは初めてです。ここは他の場所とは大きく様相が異なるのですね」
「そうだね。ここには住居以外の施設はキャンプ場しかないんだよ」
「なるほど。ですからその分、住居の一軒一軒の間隔を空けられているのですね。個人の空間を重要視しているのでしょうか」
玄武エリアに建つ寮には、菖蒲達が居を構えているような集合住宅は一切ない。風呂トイレが共同のバンガローこそあれど、屋根は必ず独立している。
「玄武エリアが住む場所に特化してるっていうのは間違いないかな。中でもこの辺りは特別なんだ」
「特別、と言いますと……?」
「玄武エリアにも建物が密集している区画はあるんだ。こっちは高級志向。わた――俺の住んでいるところも最高グレードの部屋にあたるんだけど、ここに並んでいる建物はその最高グレードの更に上になるのかな」
「菖蒲のお部屋も”最高”なら、更に上というのは語弊があるのではないでしょうか」
「賃料は一緒なんだ。でも、見ての通り。同じに見える?」
菖蒲が指さしたのは一軒のコテージだった。菖蒲の私室と比べれば、その評価は一目瞭然だろう。
「一介の学生が一人で住むには度を越してるよね」
「そ、そうですね」
――ここではない世界において”王女”の地位にいたイリスは庶民には及びもつかない空間を所有していたのだが。
「こんなに差があるのでは、他の方々から不満があがるのではありませんか?」
「良い質問だ。この”寮”は、選ばれた人間だけが入れる仕組みになってるんだよ。学業成績の優秀者や、学園への大きな貢献を認められた人とかね」
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