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空を覗く樹木の配置。住人が不自由に感じる事はないように整備が行き届いていた。玄武エリアが誇る人の手が多分に入った自然は、原始的な風景とはかけ離れている。
「思うところがない訳ではありませんが……学園の発展に寄与している方々への報酬と考えますと、この格差にも頷けます」
「食事に関しても、本人が望めば配達も受けられる。まさに至れりつくせりなんだ」
「ふふ。菖蒲でしたら、少し腕を伸ばせば玄武えりあに住む権利にも手が届くのではありませんか?」
イリスは決してお世辞で言っているのではない。菖蒲の潜在能力については七色も認めているほど。贔屓目がないとは言い切れないのが玉に瑕。
「そ、そうかもね。あはは……」
イリスの指摘に、菖蒲は曖昧な返事をするのみに留めた。
「あ、七色が住んでいるのはここだよ」
菖蒲が解説していた高級エリアの一画に、そのコテージは建っている。菖蒲は天の助けとばかりに話を断ち切って、端末から住人に訪問の通知を送る。
入り口の階段を上ると、程なくして二人を七色が出迎えた。
「こんにちは、七色さん」
「こんにちは、イリスさん。それに、菖蒲。復調して間もないというのに呼び立ててごめんなさい。本来であれば、あたしが菖蒲の部屋に行くべきでしたが……」
「体調の事なら回復してるから気にしないで」
本当は微熱と気怠さが残っているが、過保護な七色に真実を伝えては余計な心労を与えてしまうだけだ。
「それに、俺の部屋はまだ周りが騒がしいからって事で部屋を開放してくれた七色に感謝こそすれ、文句なんてないよ」
「菖蒲は優しいですね。こんな所で立ち話もなんですから、とりあえず中へどうぞ」
「お邪魔します」
促されて、玄関の戸を潜る。飛び込んできた景色にイリスが小さく吐息を漏らした。人工的ではない、木の匂い。木目の滑らかな壁には規則正しくインテリアが配剤されている。
テラス側に繰り抜かれた大きな窓から過不足なく注ぐ陽光に照らされた室内は、入居時の状態を強く残しているのだろう。物の少なさもあるが、落ち着いた雰囲気で統一されていた。
ともすれば年頃の女性らしさからは縁遠く見える素朴な景観だった。だが、所々。例えば新緑のソファの上であれば、可愛らしい柄物のクッションが置かれていたりして、七色の心根を覗くようであった。
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