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そのリビングのテーブルの前にあるソファに白い髪の少年が座っている。七色に与えられたのであろうポータブル端末と熱心に睨めっこしていた。
そうして食卓を囲む椅子に座って部屋を検めていると、七色がキッチンから持ってきた二つのカップが二人の前でカチャリと音を立てる。
「紅茶です。熱くなっていますので舌を火傷しないように気をつけて下さい」
各々お礼を言う。七色は手で「いえ、これくらいは」と言って再びキッチンに引っこみ、自分の分の飲み物とお茶請けを持ってくる。
「あ、あれ? どうしたの?」
先ほどまで置物と化していた少年が、いつの間にやら机に齧りつくようにして何かを一心に見つめていた。
その熱烈な眼差しは七色に――ではなく、その手の上の個装のお菓子がふんだんに盛られた陶器に注がれている。
「ふふ」
イリスが少年の関心の対象を悟り、自然と微笑む。
「ちょこれーとがお好きなんですか?」
耳朶を撫でるような心地よい声音で問いかけられた少年は、頭上に疑問符を浮かべて首を傾げる。
「七色さん。お一ついいですか?」
七色の承認を得て、イリスは器から包みを一つ手にとって少年に差し出す。垂らされた釣り糸に、少年は我が意を得たりと飛びついた。
「のえるの因子?」
「……子供は大体チョコレートが好きだとは思いますが」
「そ、そうだね。まだこの子がのえるだと決まった訳じゃないもんね」
二人の間を気まずい雰囲気が流れたが、少年が目を輝かせて幸せそうにチョコレートを咀嚼する姿で簡単に吹き飛んだ。
「私達を集めたのは、この子の話をする為だよね?」
「はい。学園長に伺った内容の報告をしたいのですが、まだもう一人が来ていません」
と、そこで。七色の空色の端末が来客を伝えるポップアップを表示する。
「役者が揃ったようです」
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