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七色が開いた扉の向こうから、ひょっこりと目にも眩しい桃色が顔を覗かせる。
「こんにちはー! 呼ばれて飛び出て陽なのですよー! お邪魔しまーす!」
七色が招待した最後の客人、宮園陽は脱いだ靴を几帳面に揃えてから、先客の菖蒲達にもニッコリと太陽スマイルを向けた。
「先輩方もこんにちはー! やー、玄武エリアに知り合いがいないでもありませんけど、やっぱりこのエリート区画は別格なのですよ。まず広い! 陽、迷子になりそうでした」
サイドで一本に結ったショッキングなピンク色の髪を軽快に跳ねさせながら二人の元へ。
「端末のナビ機能は使わなかったの?」
源王学園に属する生徒達に着用が義務付けられている腕輪には、情報処理端末として十分以上の機能が備わっている。目的地への案内もしてくれる地図アプリはプリインストールされている。
「実は陽、ナビはなるべく使わないタイプでして」
「どうして? 便利だよ?」
「機械に頼り切りになって街歩きも気軽に出来なくなったら困るじゃないですか。陽はあまり要領がよろしくないので、こうして日頃から訓練しておかないと地図を読めない大人になってしまいかねないのですよ」
陽はアナログ至上主義ではないが、人間を高める努力を怠らない。
例えば特技の一つである料理などは、情報媒体からレシピを仕入れる事はあっても、一度は必ず紙面やデータに書き写す手間を挟む。そうすることで、自身の記憶に情報を蓄積する。
「陽さんはしっかりされてますね」
――見た目に反して。イリスは単純に感心しているが、菖蒲と七色はそんな事を思った。
「それほどでもないのですよー。と、こ、ろ、で」
陽が思わせぶりに視線を下げる。イリスの膝の上には、陽などお構いなしにチョコレートをはむはむ貪る少年の姿があった。
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