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しかし、見た目には非の打ち所がない男性ではあるが、性別上の様々な問題は付き纏ったままだ。これまでは恵流の補助もあり、事なきを得てきたが――と、そこで。
「宮園陽は紅茶と珈琲どちらがいいですか?」
七色がキッチンスペースからカップをそれぞれ一つずつ持って戻ってきた。
「あ、では紅茶で……」
「ではこちらを。ミルクと砂糖は机上にあるものを好きに使って下さい」
「あ、ありがとうございますなのですよ」
差し出された紅茶を、陽はソーサーに片手を添えて恐縮しつつ受け取る。七色が陽の隣の椅子を引くと、陽の身体はより縮こまった。
「話の途中でしたか?」
七色は一同を見渡して訊ねると、陽は笑顔を張り付けて「ちょうどキリの良いところでした!」と返答する。
「それでは、早速ですが本題に入りたいと思います」
七色の淡々とした宣言に、緩く撓んでいた雰囲気が引き締まる。その変化に、お気楽だった少年も違和感に思ったのか七色を見つめた。
「皆さんに集まっていただいたのは、文面でも説明しましたが、この少年の処遇について早急な話し合いの必要に迫られたからです」
「その前に、この小さな子に関して学園長はなんて言ってたの?」
「詳しい話を聞く事は何一つ叶いませんでした。肝心な事は終始はぐらかされ続けた印象です。その癖、要望だけはしっかりと言い含めていきました」
その要望というのが、七色の言う本題になるのだろう。
「ここにいるのは、例のクエスト発生の報せを受信した人間です。あたしの把握している全ての受信者……いえ、一人欠けていましたか」
「ルナですねー。敵地のまっただ中になんぞ行けるかーと取り付く島もなかったのですよ。あれは”前回の大敗”で相当いじけてるとみました」
陽の双子の姉、宮園月も『真実のアイを探せ』という指示を受け取っていたが、ただでさえ勢力間の確執が深めていた溝は相当深度を増しているようだった。
「つくづく子供ですね。まあ、仕方ありません。事実、その通りですから」
七色も七色で、ルナのようなタイプは嫌悪の対象にある。お互い様だろう。
「いない人間の話をしていても時間の浪費ですね。あたしが学長から受けた指示は至って単純です」
と、前置きして機械的に告げる。
「本日クエスト発生の報せを受信した者達で、順番に少年の世話をするように、と」
◇ ◇ ◇
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