二章 ささやく
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二章 ささやく

 正宗くんが文字通り転がり込んできて、数時間後のいま。わたしは洗濯機のスイッチを入れるか入れないかで迷っている。  どうする? 物持ちがいいから最新式静音の洗濯機じゃないのよ。今日はお天気もいいし、日差しがもったいないんだってば。  女のひとり暮らしも長くなれば節約なのよ。まとめ洗いがいいと聞いたから今日みたいに天気が良ければ洗いたいし、天日干しをしてすっきりしたい。  ……起こすか。  白湯がはいったマグカップをキッチンに置き、ソファーに近寄った。正宗くんは頭から毛布をかぶっている。部屋は暖めたはずだけれど、この寝方で寒くなかっただろうか。 「正宗くん、朝ですよ」  毛布のかたまりに声をかけたが無反応。 「おはよう~」  尚も優しく声をかけるが、まだ無反応。 「んん」  短い唸り声がした。起きたか。毛布のかたまりに手をかけて揺すってみた。検査のために寝ている患者さんを起こすみたいに。わたしは洗濯をしたいのだ。起きておくれ。 「起きて。朝だよ」 「んあ、ああ」  モコモコと毛布が動いて、中から正宗くんが顔を出した。 「あ」 「あ」  眼帯が外れて、右耳にぶら下がっている。  眠そうに開いた両方の目が、わたしを認める。やっぱり、綺麗な顔をしているから、思わず見とれてしまった。  なんだ。目は充血もしていないし、怪我をしている様子もない。しかし外見からは分からない疾患でもあるのだろうか。 「おばあさ……」 「は?」  おばあ? おばあさん? ……わたしのことか? 「失礼ね!」 「はあっ」  正宗くんは顔を背けながら耳にぶら下がった眼帯を探り当てると、慌てて目に装着した。  そんなに慌てるなら、サングラスでもしておけばいいのに。 「寝起きでおばあさんが起こしにきて悪かったわね」 「あ、いや、すみません」 「おばあさんって歳でもないけどね!」  干物女なのは認めるけれど。  寝起きすっぴんが悪かったのかもしれない。こういう時って、こういうって男性が泊まりに来た時ってことだけれど、薄化粧とかしたほうがよかったのかな。気を遣わな過ぎるわたしが悪かったのだろうか。もっとも、この部屋に男が泊まりに来たことなんて一度も無い。 「あ、朝だよ。洗濯したいから起きて」 「す、すみません。うう」  正宗くんは頭を抑えた。 「……二日酔い?」 「……少し」  水でも飲ませて少し休ませたほうがいいかもしれない。 「お水、飲む?」 「はい……」  わたしは、グラスを取り出して汚れをチェックし、冷蔵庫を開けた。このグラス洗ったっけ? まぁいいか。ペットボトルから水を注いで、正宗くんに持って行った。 「はい」 「すみません。ありがとうございます」  消え入りそうな声だ。