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プロローグ:病室にて
「烏羽」
白んだ視界の先で、愛おしい女が立っていた。
正気と夢の狭間で、息も絶え絶えに横たわっている私を呼んでいる。
愛おし気に私の腹をたおやかな手が滑り、囁く息が耳元に触れる。
すり寄ってくる顔の、恍惚とした色があまりに愛おしくて、逃したく無くて必死に手を伸ばそうとした。
傍にいて、きっとお前、自分がやったこと気に病むようになる。
私はお前の事を許すから、許して傍に居続けるから。
だからどうか、ここに居て。
枯れた喉から声は出ず、腹を撫でるその手を掴むことは、結局できなかった。
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