2章「子供っていいよな、希望の塊って感じがする」

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子供を売る契約をしておきながら、商品をなかなか渡さない顧客がいる。 今回の仕事は闇医者家業ではなく、闇医者家業の元締めである波崎組から商品の督促の代行依頼であった。 烏羽には闇医者だと伝えてあるが結局のところ、医者の仕事が無ければ体の良い使い走りがせいぜの立ち位置でしかない。 「本当は八尾の奴が来るはずだったんですよねえ。ただあいつ、柘植さんの付き添いに呼ばれたとかで、俺になりました。すいませんね気心知れた相手じゃなくて。」 「いえ。」 ヤゴと名乗る男の車で、目的の家へと向かう。 明らかな偽名だがどうもハチの仕事仲間らしい。 適度にかみ合わない会話をしながら。そういえばハチの名字は八尾だったな、なんてよく泊まりに来る同級生の事を思った。 高校時代からの旧友がまさか同じ組織で下っ端やってると気付いたときは、互いに苦笑がこぼれたものだ。 「それにしても、どうして今回闇医者の黛さんが同行することになったんです。」 「今回督促する商品の加工を下請けするのが私の役目で。何も言わずに売り渡してくれれば、多少の傷物でも加工するんですけど。こうごねられたらよほどのものじゃない限り難癖つけて価格を落とすのがいつもの手です。加工する私の審美眼に寄るってことですね。」 運転席から無言が流れる、どうにも話が分かっていない雰囲気だ、わかるように話していないんだけども。 「加工ね……。今回の子はどんな風になる予定だったんです。」 「知らない方が幸せなことって世の中にたくさんあると思いますよ。」 それもそうかとヤゴはハンドルを切る。どうにも読みづらい青年だった。おそらく私より年下だとは思うけども。 彼だって、何かあれば私の元に流れ来るのかもしれない。 若く筋張った若い肌にメスを差し込むさまを夢想する。 見目の良い若人が、どうしようもない過ちを犯したときの行き場を私は知っていた。 ゆっくり頭を切り替えていく。 探偵社所長から、闇医者へ。 気持ちと頭を切り替える。人間をただの商品に、どこもかしこも値を付けて、情を捨て、殺さないように。 殺してやりたくても殺さないように。 脳から背骨を暗く冷たい感覚が叩く。 齢23にして、一人の女が人間として生きるのは、なかなか厳しい道だなあ。と、他人事のように考えた。 車は、目的地のすぐ目の前まで来ている。
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