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「ねえハチ、そのうち柘植さんに殺されちゃうんじゃないの。」
リビングにてハチこと八尾に向き合う。
「小姓じみた役割押し付けられてはいるけど、結局のところ柘植さんが俺の事生かす理由もないしなあ。」
「あんたと柘植さんの間にどういった関係があるのかは、まあ知らないけどさ、手が滑ればそのまま死だよ。」
「死か。」
「死だよ。」
ハチはくつくつと覇気無く笑っている。
「まあ今回は俺から柘植さんに突っかかった節があるから、もし何かあってもしょうがないかなとは思ってたよ。」
「ええ……。」
こんな身近にも覚悟キマった人間がいるとは思わなかった、ハチは昔から危なっかしいところも多かったが。
「家に帰るまで持ちそうになかったからつい寄ったんだ、少し休ませてもらったら帰るよ。」
そう呟く声はどこまでも空虚だ、生気がない。
「帰り道で倒れそうな勢いだね。」
「そうもいかないな、まだ倒れるわけにはいかないもんで。」
「『お前はいつだってそうだ、針の筵の人生を、まるでタンポポの綿毛を蹴り崩すように楽し気に進む。』」
「……2年の時の部誌の奴か。なに?全部覚えてるの。」
慣れ親しんだ一節だろう、なにせ筆者は目の前の男なのだから。
「私は高校の時の思い出を尊く思ってるんですよー。文芸部で作った初めての部誌だもん、どうしたって頭に残りやすいよ。」
「ああ、そうだったな。烏羽の話は何かと食い物が出てきたし、多木は独特な世界観してた気がする。黛は何書いたんだっけ。」
「俳句集だったかな、現国で確か触れてたから。多木のあれは一応ファンタジーかな?」
「そうだそうだ、それで白はおとぎ話だっけ。結構出来良かったよな、あの部誌。」
「気合入ってたからね。」
本棚に囲まれた古書と埃の空気に満ちた図書室脇の倉庫教室が、文芸部の部室だった。
おのおので本を読み言葉を紡ぐ静かだがにぎやかなあの場所を、私は好いていた。
「……また、みんなで集まれると良いな。」
不意にハチがこぼした言葉が、胸に染み入る。
そうだ、ただまた昔のように、友達で集まって遊びたかった。
「そうだね。会いたいね、またみんなで。」
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