1章「結局のところ、人助けって自己満足じゃん?」

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1章「結局のところ、人助けって自己満足じゃん?」

烏羽六花の一日の睡眠時間は、4時間を上回ることがとんと少なかった。 眠ることを嫌い、耐えきれず横になれば酷い夢を見て目を覚ます。 元から質の良い睡眠と縁のない性質ではあったものの、ここ半年ほどは自分から死へ歩んでいくような有様だった。 故に今日も今日とて、死に体のまま無理矢理起き上がって息をしている。 半年前から住み込みで働いている探偵事務所は、その怠慢さとは違い、明かりが途絶えることがない。 「八幡寺から人探しの依頼が来てるんだよね……。」 そんな切り口で所長であり旧友の闇医者、黛穂積は依頼内容を口にした。 「いまの時代に神隠しか。」 「いつも思うけど烏羽の発想って面白いよね。」 腑抜けた笑い声をあげて、穂積は薄いコーヒーを口に運ぶ。 自分用に入れた真っ黒なコーヒーを喉奥に流し込み、泥の中のような頭でどうにか八幡神社の情報を引っ張り出した。 この事務所は駅から離れた萎びた商店街のはずれ、壁を蔦が這うボロビルであった。 探偵社と従業員の住居を兼ねる5階建て。比べ八幡寺といえばこことは正反対、駅前の小高い山の中腹にある静かな寺院だったはずだ。 「場所情報ぐらいしか思い浮かばない」 「そうそう神社にお参りなんていかないものねえ。私もまだ電話でしか聞いてないし、3日後の2時から神社で詳しく話を聴く予定になってるからさ、烏羽ついてきてよ。君いると比較的に舐められなくて済むの。」 穂積はまろい頬に手を添えながら、花がほころぶようにほんのりと微笑む。 もちろん、と重たくうなずいた自分の首がバキボキと音を立てる、机一枚隔てて天国と地獄のようなありさまだ。 「そりゃ給料分の働きはするよ。」 「よかった、そう言ってくれると思ってたよ。ちょうど多木がいない日だったの、それじゃあ3日後よろしく。」 穂積は残りのコーヒーを一気に煽り、そのまま流しへと立ち上がる。 残った仕事を片付けるのだろう、それが所長の仕事なのか闇医者の仕事なのかは知らないが。 私は自分のコーヒーも飲み干して、ダイニングテーブルに付いた2つの輪染みを拭き取った。
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