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4章「戻らない物事程、美しく映るよな」
「しろ…ちぐさ?」
「本当はつくもちぐさって読むの。」
入学式の後日、親元を離れ知り合いのいない高校にやってきた私は、あぶれていた者同士話し込んでいた。
「しろって呼び方可愛いから、そっちで呼んでくれるとうれしいな。」
「そう?じゃあ白で。」
外面をすり合わせるように、手探りで距離感を測りながら少しずつ話を広げていく。
人間というのは不思議なもので、相手が聞いてきたからこっちも聞いても大丈夫かな?という事でも地雷だったりするのだ。
しかし自分から話しかけるにも、基本的に会話の地雷が無いちゃらんぽらん人間には「自分、これくらいなら怒らないけど相手はどうだ……?」の自問自答が続いてなかなか話し始められない、世に言う話自体はしたいけども考え込んでしまうタイプのコミュ障。
出来れば初日同然の今日から地雷踏み抜いて誘爆で死亡なんてことは引き起こしたくない。
「隈できてるよ、引っ越し作業終わってないの。」
考えていたことが馬鹿らしいほど直球に来た。
これはもしかしたら相手もちゃらんぽらん人間かもしれない。
「聞いて驚いてよ、手配間違えて今家空っぽ。」
「虚無だ。」
「虚無だよ、トイレットペーパーとゴミ袋しかないよ。」
「じゃあ床で寝てるの。」
「春用コート敷いてみたけど、あれはダメだね、何も床から守ってくれない。」
「んふ、変なの。じゃあ何も掛けてないんだ。」
「ゴミ袋は結構優秀だった。」
「ホームレスのほうがもっと上等な寝床持ってるよ。」
ケラケラと軽快に笑う相手に、嫌味の色はない。本当に心から笑っているんだろう。
あぁ、よかった助かった。
これで引かれていたらと思うと心臓に悪い。ポンポンと弾むような話し合いに頬が緩む。
寝袋買って帰りなよ、なんていう助言に従って学校帰りに二人でホームセンターに寄ったその日から、白との長い友好関係が始まることになった。
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