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かつて僕は、突然戦いに巻き込まれた時の為にと、格闘技を習った事がある。
漫画やアニメの主人公なんかは、よく実は格闘技やスポーツを習ってた事があったりして、
その時の技術を生かして窮地を脱したりするだろう。
それの真似である。
中学に入った時に空手を。
高校に入った頃には、ボクシングのジムに通っていた。
とはいえ、魔法や能力者達の戦いに巻き込まれるなんて、本気で思った事はない。
不良に絡まれた時に使えるかも、と思ったことはあるが、
実際に使ったことは、一度も無かった。
昨日までは。
さて、今僕の手には"魔導武器"と呼ばれている、剣と銃を合体させた様な、奇妙な武器が握られている。
なんでも、人間の身体に秘められている魔力を使い、魔弾を放ったり、凄まじい威力の刃を生み出したり出来るらしい。
魔導武器には様々な種類やタイプがあるらしく、この銃剣はもっともスタンダートな物という事だ。
今現在、僕に課せられた任務は、この学園内にいる追っ手を討ち取る事である。
追っ手も、僕と同じ様な"魔導武器"を手にしている為、反撃には注意しなければいけない。
人気の無い教室から、そっと廊下の様子を覗く。
その瞬間、虹色の光が瞬く。
「っ!?」
慌てて首をひっこめたが、飛来してきた魔弾が僕の頭を掠め、髪の毛を焦がした。
「おいクソ、ハゲたら訴えてやるからな・・・!?」
だが相手の位置は捕えた。
追っ手は丁度、隠れる場所の無い廊下を進んでいるところだった。
銃撃するなら今がチャンスだ。
銃剣を構え、もう一度廊下を覗く。
そして、相手が発砲するより速く、魔弾を放つ。
そのつもりだったが。
「はっ!?」
追っ手は、身を隠すどころかこっちへ向かって走ってきていた。
落ち着け、怯むな。
銃剣のトリガーを引き、魔弾を放つ。
1発目は、追っ手の左に逸れていった。
2発目は、命中する軌道だったが、追っ手の振るう銃剣に弾かれてしまった。
おい、ふざけるな。
剣で弾丸を弾くとかそういう主人公みたいな技を、ただのモブキャラがするな。
とか思いながら3発目の魔弾を放つ。
が、その瞬間。
銃剣を握る両手に、鈍く重い衝撃が走る。
その衝撃で、僕の手から銃剣が吹き飛ぶ。
「ッ!?」
追っ手の放った魔弾が、僕の銃剣を撃ち抜いたらしい。
銃剣は、廊下の向こう側へと転がっていった。
「あー、クソ!」
教室に引っ込み、扉を閉める。
ところで、さっきも言った通り。
かつて僕は、突然戦いに巻き込まれた時の為にと、空手やボクシングを習った事がある。
武器が無くとも戦いの心得がある。
今までは全く使いどころが無かったが、今こそそれを発揮する時だろう。
きやがれ。
扉を開けた瞬間、まずは相手の武器を掴んで封じ、接近戦に持ち込めば勝機はある。
僕は息を殺し、奴が扉を開ける瞬間を待った。
そして、扉が開かれる。
銃剣を構えた追っ手が姿を現す。
「今だ・・・!!!」
ファイティングポーズを取り、顔を守りながら追っ手に肉薄する。
そして、銃剣を振るうその腕を、片腕で掴んで防ぐ―――
「おっ・・・?」
と、顔面をガードする様に構えていた右腕が、大きく弾かれる。
そして。
目の前に、拳が迫るのが見えた。
そして次の瞬間には、顔面に鈍い衝撃を感じた。
痛みはないが、頭が痺れる様で、全身が重く感じる。
僕はそのまま、床に倒れ込んでしまった。
・・・空手とボクシングを習っていたと言ったが、上手いとは一言も言っていない。
僕は運動は不得意だし、筋力も弱い。
だからこそ、格闘技を習って鍛えろよと言いたいところだが。
どちらも、数ヶ月で辞めてしまった。
あまりにも向いてなくて、苦痛にしか感じなかったのだ。
「そこまで」と、何処からか試験の終了を告げる声が響いた。
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