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ここは異世界の洞窟か
夜。
ベッドの上で横になりながら、スマートフォンでSNSを眺め、
少し気になっていた女子の「彼氏が出来た」という文字列に虚しさを感じながら、
「別に、あの子と自分が、付き合えたとなんて思ってない。
ただ、そういう不平等で作られたこの世が、クソだと思っただけだ」
などと、誰に言う訳でもない愚痴を思い浮かべながら、僕は眠るのが惜しくて、ベッドでだらだらと過ごしていた。
僕がボッチで彼女が出来ないのは、性格が捻くれているせいだと言われた事もあるが。
僕はそうは思っていない。
いつからだろうか。
僕は良い子でいる事をやめた。
学校の決まりを守って喜ぶのは教師だけだ。クラスメイトからは嫌われる。
皆の求めている「性格の良い奴」というのは、決まりや言いつけをきっちり守る奴の事じゃない。
真面目過ぎる奴は、逆に虐められる。僕がそうだったからだ。
真面目に勉強して何が得られる?
「成功するのはテストの点数を取れた奴じゃなく、マジモノの天才か、頭がキレる奴か、口のうまい奴だ」
・・・と言ったのは、良い大学を出て大手企業に就職し、鬱病になって実家に帰ってきた兄の言葉だ。
それと今朝。
水飲み場で偶然出会った今井くん(5,6回くらいしか話をしたことがない)から唐突に、
「お前、その目元まで伸びてるクッソ長い髪の毛切ったら、少しはモテる様になるんじゃね?」
とアドバイスを貰ったが、それも正しいとは思ってない。
女子を遊びに誘っただけでSNSで陰口言われて、軽い虐めに遭ったその当時は、髪の毛がこんなに長くなかったからだ。
それはどうでもいい。
とにかく僕は、歪んだ刃で心を守る前から、世界に愛されていなかった。
****
「・・・?」
目が覚める。
そう、覚めたはずだが。
寝心地が悪い。
ベッドで寝ていたはずだが、布団の柔らかさは、まるで感じない。
背が冷たく、ゴツゴツと痛い。
見ると、僕の周りには沢山の湿った岩が転がっていた。
「おいおいおい、此処は何処だよ」
周りは薄暗く、湿度が高いくてジメジメしている。
周りが殆どが岩だが、所々に、大きな結晶があり、それはぼんやりとした光を放っていて、なんとか周りの様子が伺える。
推測するに、ここは何処かの洞窟だ。
「はぁ・・・?」
理解不能な状況に、思わず溜め息が出た。
だが不思議と、恐怖感は感じない。
湿気は酷いし、空気も悪そうな感じがするが、何故かこの空間に不快感は感じなかった。
まるで、お前にはここがお似合いだと言わんばかりに。
ここで錆びて死ねと。
この世界に、そう言われている気がした。
「よっこいせ」
だが残念ながら、そうはさせない。
僕の人生は、詰まらないものだった。
だからこそ、僕はそんな簡単にくたばる気はない。
耳を澄ますと、洞窟の奥から何か音が聞こえる。
その音の正体が、出口への目印となるのか、はたまた危険な何かかは分からないが。
今は、この洞窟を進むしかない。
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