ここは異世界の洞窟か

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「あぁ、クソ・・・!?」  恐怖で背筋が凍る。  だが、怪物はゆっくりと動いているだけで、こちらに襲いかかる気配はない。  巨大な恐竜が、動く物に反応するというのは、映画で良くある設定だ。  実際、こういった爬虫類は動く物に反応して獲物を捕らえる事が多い。  もしかしたら、動かない方が安全なのかも知れない。  なので、下手に動かずに様子を見るのも手だろう。  僕は、ガタガタと震えている脚で気付かれてしまわないかと冷や汗をかきながら、怪物の様子を伺った。    そもそも、逃げ道は既に塞がれている。  今の僕は武器を手にしているが、こんな剣一本でどうにかなる相手とは思えない。  動かずに、怪物が去るのを待つという選択肢が正しい事を、ただ祈った。  怪物は横に開く口を少し開けて、ゴォォォ、と風が吹き抜ける様な低音で唸る。  そしてもう一度、僕の姿を確認するように頭部を近づけると。  不規則な大きさの脚を動かし、広場へと降りていき、適当な穴の中へと去っていった。 「・・・あぁ、助かった」     正直、死んだと思った。  生きた心地がしないとはまさにこの事だろう。        まだあの怪物が襲って来る前に、さっさとこの洞窟から出るべきだろう。  そう思い、洞窟を進もうとしたが。   「あ、あれ?」  身体が動かない。  かなしばりに遭った時の様に、身体が全く動かないのだ。   「おい、お前」  後ろから、少女の声が聞こえる。  振り向けないので姿は確認できないが、その声から、恐らく少女で間違いない。 「下手な事はするなよ。殺しはしたくない」    じゃりじゃりと足音が聞こえ、やがて少女の方から目の前に姿を出してきた。       現れたのは、声のイメージ通り少女であった。     肩程まで伸びた黒髪ウルフカットの、目が赤い少女。  さっき、怪物と追いかけっこをしていた少女だ。  多分年下だろう。  幼さが残る可愛らしい顔をしているが、しかしその目は鋭く、きつい。    おまけに、彼女の手には刃物が握られていて、その先を僕の喉元へ向けていた。  「ま、待て。僕はここに迷い込んだだけで、君に危害は加えないから安心してくれ」  正直に、敵意が無い事を伝える。 「危害? 危害ならもう受けてるんだが」 「な、なに?」  少女は不機嫌そうな声でそう言うと、僕の喉元へ刃物を近付けた。 「その剣だ。その剣は私の物だ。横取りしようとしたんだろ?」  少女はガンを飛ばしながら、身動きの取れない僕から黒い剣を奪い取る。   「おっと、取り返そうなんて思わない方がいいぞ。ここは人が寄らない洞窟の奥底だ。 ここで死んだら、誰も気付かないだろうな」  「・・・」  別に取り返す気は起きなかった。  僕にはその剣がどんな物なのか知らないし、偶然手に入れただけだ。  それよりも、今はここから生きて帰る事の方が大切だろう。 「まぁ、あの竜に追いかけられながら探すのは大変だったから、ある意味探す手間が省けた。どうもありがとよ」 「あ、あぁ。それはどういたしまして」      一応、返事を返したものの。  もはや少女の興味は僕には無いらしく、手に入れた剣を眺めて満足そうにしていた。  だが、次の瞬間。 「・・・はぁっ!?」      少女が、驚いたような、焦った様な声を上げた。 「おい、なんだよこれ、剣が・・・!?」    その理由は、見ればすぐに分かった。    僕から奪った黒い剣の刃が、みるみるうちに砂の様に砕けていくのだ。 「お、おい。なんで・・・なんだよこれ!?」    そして無常にも、剣は柄だけを残して、砂となり消え去ってしまった。 「ふざけんなぁぁぁぁぁぁ!!!」     洞窟の中に、少女の怒りの叫びが響いた。  
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