腐竜の黒剣

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腐竜の黒剣

「えっと・・・これが"腐竜の黒剣"ですか?」 「ああ、そうだ。私が見た時は確かに刀身があったんだよ。けど、消えやがった」  不良っぽい黒髪ウルフカットの少女と、大人しそうな少女が、何やら剣について話をしている。  部屋の中には、剣やら杖やら、他にも見た事のない物体が沢山散らばっている。     察するに、この大人しそうな少女は、こういった武器に詳しいのだろう。    あの後、あの洞窟で。    僕はこの不良少女に「魔剣の情報を聞き出す為」と強制的に連行されたのだ。  お陰で洞窟から脱出出来たので、それは良かったのだが。    驚いたのはそこからであった。  不良少女が「街に飛ぶから、絶対にそこから動くなよ」と言われた瞬間。  僕らに向かって、上空から眩い光が降り注いできたのだ。  何かの衛生兵器かよ!? と焦ったものの。  行動を起こそうとした時には、僕らは既に光の中であった。  そこからどうなったのかは良くわからないが・・・。  気付いた時には、街中の広場にいた。     連れて来られた街は、まるで見た事のない街であった。    少なくとも、日本ではない事は分かる。  雰囲気だけで見れば、ヨーロッパ系にある何処かの外国に見えるが、多分違うだろう。    まぁ、洞窟の中にあんな馬鹿デカイ怪物がいて、その奥にカッコイイ剣がある。という時点で察してはいたが。    ここは僕の知っている世界じゃないだろう。  多分、異世界だ。   「確かにこの剣の柄は、普通の物質ではないです。解析不能な物質で出来ていて、強力な魔力を秘めています」    「じゃあやっぱり、これが魔剣であることは間違いないんだな」   「はい。ですが、元に戻す方法はさっぱりわかりません。何せ、柄に含まれる魔力の成分すら・・・」 「そうかよ」  すると突然、不良少女はその辺にあった容器を引っ張り出すと、剣の柄を投げ入れた。 「え、あの・・・何を・・・?」  困惑している少女の事は気にもせず、不良少女はその容器に手を翳すと。  その手のひらから、オレンジ色の炎が吹き出した。   「ひゃあああああああ!?」 「っ・・・!?」  紛れも無い、本物の炎。  離れているにも関わらず、こっちまでその熱が伝わってきた。   「・・・ダメか」  それは数秒程の出来事だっただろうか。  炎が止むと、不良少女は容器の中を覗き、そして舌打ちを吐いた。 「ななな、何やってるんですか!? 貴重な魔剣になんてことを!!!」 「なんだよ。刺激を与えたら変化するかもしれねーだろ。もしこの程度で壊れる魔剣なら要らなねーし」    不良少女は、容器から剣の柄を取り出す。 「・・・熱くはないな。やっぱり、ただの金属じゃないみたいだな」 「あああ、あの! 魔術武器の中には、精密な物だってあるのですから! 扱いは慎重に・・・」 「そうだな」  そして不良少女は、剣の柄をまた容器の中へ投げ入れると。  今度は手のひらから、黒と赤の混ざった稲妻を放出し始めた。   「だからあああぁぁぁ!?」 「うわっ・・・!?」  今度は、さっきの炎とは威力が違う。  衝撃で空気中が震えている。    そして・・・。  バリン!!! と破裂音が響き。  容器が砕け散った。 「あー・・・」  中に入っていた剣の柄が、勢いよく宙に舞い。 「・・・痛っ」  僕の腕にぶつかってきた。  カラン、と音を立てて剣の柄が落下する。   「あぁぁぁ!? シルイさん!? 何してくれてるんですかぁぁぁ!!!」      「あー、悪い。これで弁償してくれ」  言いながら、不良少女はポケットから何か・・・硬貨の様な物を数枚程取り出し、少女に渡した。 「銀貨8枚も・・・!? って、そういう問題じゃありませんよぉぉぉ!」 「迷惑料だ貰っといてくれ。それは良いとして」  彼女らの視線は、僕の方・・・正確には、床に落ちてる剣の柄に向く。 「変化無しかよ」 「・・・当たり前です」  もちろん、剣の柄には何の変化も無い。   「・・・はぁ」  どうせ僕の足元に落ちているので、柄を拾い上げる。 「はい、どうぞ」    また「盗るんじゃねぇ」と不良少女にナイフで脅されても困るので、剣の柄は少女に返す事方が良いだろう。        「おい・・・」  だが、少女は固まったまま、ずっと僕の手元を見ていた。  何かあっただろうか。  と、剣の柄を確認すると。   「いっ・・・!?」  剣の柄から、黒い粘液の様な物体が沸き出していた。  黒い粘液は重力に逆らって伸びていき、段々と何か形を生み出していく。 「これは」  最初は驚いたが、どうなるのかは大体想像が付いた。  やがて黒い粘液は、黒い刃を形成する。  元の、刀身の太い魔術的な禍々しさの剣である。
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