158人が本棚に入れています
本棚に追加
けど結局妥当なものが思いつかなかったのか、遠い街並みを眺めて唸っていた。都会の中に造られた大きな自然公園。その一番高い丘の上で、子ども達の笑い声を聞いていた。
『本当に好きな人なら……多少の不自由は我慢するんじゃありませんか。それが普通というか、一般的でしょう』
確かに、普通の意見。笑いそうになったが、そのすぐ後に彼はため息をついた。
『でも、縛られてるって思う瞬間はたくさんありますよ。恋人の前では他の人といる時距離守らないといけないし』
『あれ、俺の前で他の人とイチャイチャしたかったの? いいよ、別にしても』
『えっ!? いやいやしません! 命懸けます!!』
自分が束縛されることが嫌いだから、ある程度突き放そうと思った。冷たくする気はないが、彼は自分より若いから尚さら“そういうことを”嫌がりそうだ。でも、素っ気なく返すと意外にも彼は頬を膨らました。
『あと、できればそこはイチャイチャしたら駄目って言ってほしいです』
『へぇー。由貴君は縛られたいタイプ?』
『いやっ縛られたくない……けど、やっぱりちょっとは縛られたいんですよ。嫉妬してほしいんです。我儘だし矛盾してると思うけど……これだけは絶対、不自由とは違います』
指で丸をつくり、彼ははにかんだ。風が吹くたびに波打つ草原が心地いい音を鼓膜に届ける。
俺の心にも、気持ちの良い風が吹き始めた。
付き合って二ヶ月。恋人としては最長記録を更新した。想像以上に危なくてそそっかしい子だったから、余計なことまで一々教えた。彼はどこか不満そうで、でも素直に驚いていて、その反応を窺うのは中々面白かった。
君が心の底から笑って話せる相手は誰だろう。
少なくとも俺じゃないことは確かだ。どれだけ楽しく会話をしても、君の顔にはしょっちゅう陰がかかる。何をしても「すいません」ばかりで、「ありがとう」と言われたことがない。恋人……なのかどうか、いまいちよく分からない関係。
男に抱かれてばかりだったけど、初めて抱きたいと思った。体温を知りたい。どんな声で鳴くのか、どんな顔で自分を手放すのか。何もかも捨て去り、飛び降りる瞬間を二人で感じてみたかった。
最初のコメントを投稿しよう!