Settle

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流れ星がしょっちゅう肉眼で確認できる。やはり光のない山奥は星を見るには絶好だ。 助手席の窓をわずかに開けて、由貴は夜空を見上げた。街中とは比べ物にならない冷気が徐々に体温を奪っていく。 この身体から熱が失われたとき、あの星と同じになれる。光って、飛んで、霧散する。気体になって降り注ぐ存在になる。 けど、それはもう少し先の話だ。まだ飛べない。まだ飛ばないと、彼と約束した。 小さなメモリをパソコンから抜き取り、胸の内ポケットにそっと仕舞う。加熱したそれは温かく、心の底まで染み渡る。 きっと、もう取り出すことはない。誰にも話す予定のない、自由の秘密。 何も覚えていない司が、今はたまらなく愛しい。一体どこからこの愛しさが溢れてくるのか。自分でも不思議でしょうがないが、きっと彼の想いはこのメモリに集約している。 由貴はドアを開け、街を眺めながら一服してる司に声を掛けた。 「司さん、冷えませんか?」 「あぁ、やっぱりここは寒いね。……朝になっちゃうからもう行こうか」 司は煙草を灰皿に押し付けると、自分の上着を脱いで由貴の肩に掛けた。少々煙草くさいが仕方ない。感謝して頭を下げる。 「仕事はゆっくり探すか。由貴君、これからどこに行きたい?」 「あの街以外ならどこでも。って言うのも本音なわんですけど……ひとつだけ、言ってもいいですか?」 「もちろん。どこ?」 「俺の故郷。田舎だけど、星も見えるし、海も山もあるし、良いところなんです。次帰るなら、司さんと帰りたいってずっと思ってたから」
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