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由貴の声は少し声が震えていた。はっきり主張することはやはり躊躇する。嫌われないか、拒まれないか。これは相手の時間を奪うこと、選択を制限することなのだ。それが怖くなって、遠慮して、自由な心を殺す。不自由になる道を、自分と司は自ら選んで生きてきた。
それをやめにしよう。自分達は死ぬまで、自分の為に生きるのだ。離れる心配なんてない。
司が不幸を望むようになったあの日から、彼に寄り添うことを決めた。それが神様の悪戯でも、仕組まれた運命でも構わない。
誰と生きるか、誰と死ぬのか。選択するのは自分の自由だ。
「由貴君の故郷? そりゃ是非とも遊びに行きたいね。さっそく行こう」
「やった。ありがとうございます!」
飛び降りたい気持ちなんて、彼といたら吹き飛んでしまう。あの街から離れれば離れるほど、想いは強く激しく、走り出していた。自分が取り残されるほど、解放されてしまっている。
彼が隠したかったこと。……知ってほしかったこと。全て受け入れた上で前に進む。彼が俺の秘密を受け入れてくれたように。今度は俺が彼に返す番だ。
「司さん。好きです」
勘違いから初めてしまった、間違いだらけの恋。納得するには難しい、奇妙で危険な恋。
自分達を繋ぎ止めてるこの糸は、きっと化学じゃ説明できない。
「変なの。由貴君ってどんどん可愛くなるね」
今も昔もちょっと変わってる彼の隣で、これからも。
平凡で退屈なくらいの恋をしよう。俺はもう少し大人になって、珈琲はブラックで飲めるぐらいになって、彼の好みも熟知して。
誰よりも尊い存在だと思って貰えるように、彼を愛そう。
その想いが少しでも伝わったらなんて幸せなことか。
人は皆縛られている。自由を奪う存在に心惹かれ、愛し合う。どちらかが死ぬまで囚われる。
この苦しくも美しい摂理のもと、世界は回っている。
俺も例外じゃない。自由を失うことは怖くない。だから今度こそ胸を張り、大きく息を吸う。
俺を象る世界。
世界は、彼のそのもの。
彼が傍にいるなら、不自由はなんでもないこと。
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