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彼の素直なところが羨ましい。褒めたら嬉しそうに笑う。軽くでも注意したら落ち込む。
そういう子は大体周りに愛されてきた子だ。けど何故か彼はそう見えなかった。常になにか欲し、渇望している。愛されたいという想いを誰かに向け、最大音量で発信している。
なりふり構わず泣き叫んでる。……赤ん坊みたいだ。
それに気付いているのは自分だけかもしれない。
でも、それでいい。いつか泣き止ませてみせる。
自由になりたかった俺は、いつしか彼を目で追うようになった。
塗り固めていた虚像はとっくの昔に打ち砕かれていたらしい。足元にはバラバラになった過去の自分の破片。残ったのは、自分も知らなかった本当の顔。本当の想い。
人を知りたいと思った。好きな人を知る為なら不自由になっていい。パソコンの前に立って、久しぶりにあの世界へ脚を踏み入れた。
黒い空にまたたく、赤や青の星。目が悪い自分でもはっきりと視認できる光。愛と憎しみで象られた、誰かの為の街。
ここへ来たのは二度目だ。一度目は成功したものの、想い人も“本当に”繋がりたい人もいなかったから、解析だけして早々に退散した。
だけど今は─────。
画面から目を離さないよう注意しながら、必要な情報を入力した。失敗したら、死んだも同然だ。
成功……しても、本当に彼が自分と一緒にいてくれる保証はない。むしろ何らかの自由を失うなら百害あって一利なしの挑戦。賭けですらない。
それでも手を出してしまったのは、彼に近付く方法がこれしかなかったから。
いつだって触れる一センチで戸惑ってしまう。この関係も彼自身も、粉々に壊れてしまう気がする。それが何よりも恐ろしい。生まれて初めての感情だった。
神様の家から抜けるとき、人影が無数に見えた。その中に亡くなった父がいた。彼は笑っていた。
死ぬのか、不幸になるのか……。
シャットダウンし、天井を仰いでも現実味が湧かなかった。廃人にはなってない。気は確かだ。成功、した。
噂通りなら、きっともうすぐ“自由”を失う。
俺の想う自由は、やっぱり生きる気力そのものだ。生きたいという想いがなくなったら、手足を失ったのと同じ。身動きができなくて苦しい。
不幸を自ら願う。それだけはしたくない。
時間を気にしながら、あの黒い画面を開いた。
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