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 スピーカーから蛍の光が流れ始めて、さつきはページをめくる手を止めた。  いけない。つい時間を忘れて本を読んでしまっていた。  慌てて棚に戻してカウンターに向かうと、相方の二年生は既に帰り支度をしている。 「すみません、カウンター任せきりにしてしまって」 「いやいや、全然いいよ」先輩は笑っていた。読書にふける姿がカウンターからも見えていたのだろう。 「こっちも書架の整理任せちゃったし。人もほとんど来なかったしね」 「最後の見回り、私やっておきますから」  施錠は司書や事務員がしてくれるが、図書委員も一応見回りをしてから帰ることになっている。カウンター業務をほとんど任せてしまった以上、そのくらいは引き受けるべきだろう。広い図書館だが、ざっと確認するだけならばそこまで時間はかからない。  さつきの申し出に先輩はためらいを見せたが、やがて遠慮がちに「じゃあ、お願いしてもいいかな」と答えた。  館内に残っていた生徒たちは、皆次々と出口に向かっていた。  戻し忘れた本はないか。机や椅子はきちんと片づけられているか。  残っている生徒はいないか。ゴミは落ちていないか。図書委員が確認するのは、さしあたってそんなところだ。  左右を見渡し、消しゴムのカスなどを集めながらさつきが歩いていると、一番奥の椅子の位置が斜めになっているのが見えた。あの男子生徒が座っていた席だ。彼もまた、先ほど図書館を出て行ったばかりだった。  閉館の音楽を聞いてあわてて立ち上がったのだろうか。何にせよ、まっすぐに戻しておかなければいけない。
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