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 ――余計なこと、しないでよ!  友達は泣いていた。男子は担任に叱られていた。  彼は興味本位で、彼女の日記を見てしまったのだ。しかも一人ではなく、一緒に下校した男友達と共に。  そうして、皆で笑いながら読んでいたところを、当の彼女に見られてしまった。  知られて困ることが書かれていたわけではない。日記に嘘を書いていたわけでもない。  けれど、「勝手に日記を読まれた」という事実が彼女を傷つけた。  男子たちにからかうような言葉をかけられて、ひどく恥をかかされたという感情は、彼らに日記帳を託したというさつきにも向かった。  ――勝手に読まれるくらいなら、忘れて先生に怒られる方が良かった!  彼女はそう言って泣き、周りの女子に慰められていた。  本人以外に、さつきを責める人間はいなかった。担任も、クラスメイトも、悪いのは勝手に人の日記を見た奴らだと言ってくれた。理屈ではその通りだ。さつきは人の日記を読んだりしていない。ただ、宿題を忘れた友達が月曜に苦労するのが気の毒だったから、届けてあげたいと思っただけのことだった。  それでも、考えてしまう。もしも、と。  もしも、他の人間に預けたりせず、自分で友達の家まで持って行っていたら。  もしも、自分一人で判断せず、担任や他の子と相談していたら。  もしも、もしも、もしも。  ぐずぐずと考えてしまう自分が、とてつもなく嫌だった。  人に情けをかけた結果、その人を傷つけて、自分をも責めることになるのなら。親切になんて、しない方がいい。  情けは人のためならず。  たとえ、本来の意味とは違ったとしても。実際、情けは自分のためにも、その人のためにもならないことがあるのだと。さつきはその時、うんざりするほど実感した。  だから、もう。余計なことはするまいと決めていたのに。
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