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 だいたい、忘れ物も落し物も、本人の責任だ。取りに来るも来ないも、本人の自由。困るのは本人であって、拾ったさつきではない。  その場に放置したわけではなく、ちゃんとカウンターで預かっているのだ。最低限のことはしている。  道端で拾ったものだって、交番に届ければそれで終わりだろう。これ以上、何をしろと言うのか。  ――もし、持ち主に心当たりがあるなら。  司書の言葉が、響く。  心当たりがないと言えば、それは嘘だ。少なくとも、あの席に最後に座っていたのが彼であることを、さつきは知っている。たとえ彼のものではなかったとしても、確認することくらいはできる。違っていたら今度こそ箱に入れておいて、本当の持ち主が現れるのを待てばいいのだ。  できる、のに。そうしないのは。   本の整理をしながら、さつきは奥の席に視線を移した。  先生に注意を受けたのだろう、先程のざわめきは落ち着き、図書館は静けさを取り戻している。  男子生徒は、いつもの席で背を向けて座っており、表情を窺い知ることはできない。  あなたは、誰?  どうして此処に来るの?  あの鍵は、あなたのものではないの?  心の中だけの問いかけに、無論、返事はなかった。
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