22人が本棚に入れています
本棚に追加
3
五月の連休が明けても、鍵は箱に入ったままだった。
毎回確認する癖が付いてしまった自分に、さつきはいささかげんなりする。いっそ忘れてしまいたいのに、ついつい気になって箱を覗いてしまうのだ。
不可解なことに、今度こそ無くなっていてほしいと思う反面、おそらくまだ残っているだろうと確信している自分もいる。結果的にその予想が外れたことはなかった。取りに来てほしくないわけでは、決してないのに。
無機質な光沢を放つ、「S」のキーホルダー。細かな傷がいくつも付いた、ありふれた自転車の鍵。
それは、さつきの脳内に楔のように打ち込まれたまま。ずっと、箱の中に鎮座していた。
チャイムが四限目終了を知らせると、教室はにわかに騒がしくなる。
お弁当を持参した生徒は仲の良いグループでまとまり、購買へ向かう生徒が足早に教室を出て行く。四月のうちはどこか余所余所しさがあったさつきのクラスも、今はすっかり打ち解けた雰囲気になっていた。
「てかさぁ、テスト、マジで嫌なんだけど」
席の近い女子たちとお弁当を広げていたさつきは、クラスメイトの嘆きに深くうなずいた。
「わかる、ほんとそれ。中学より教科多いし、ヤバくない?」
「もう勉強してる?」
「まっさか。全然やってないって」
他の女子も、箸を動かしながら口々に同意する。
中間テストは五月末である。あと二週間と少しだ。まだテスト期間には入っておらず部活動も通常通りだが、高校に入って最初のテストということもあり、皆なんとなく周りの出方を伺っている雰囲気がある。図書館で自習する生徒も、徐々に増えつつあった。
最初のコメントを投稿しよう!